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Shade

『Shade』

iri

[label: ビクターエンタテインメント/2019]

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純粋な孤独を歌う、この街、この時代のブルース

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text by 小川智宏

 先日、向井太一のビルボードライブ東京でのライブを観た。27歳のバースデーを記念したそのステージで、彼がカヴァーしていたのがiriの初期の名曲「会いたいわ」だった。盟友ともいえるふたりの関係性についてはここで詳しく述べることはしないが、単純にブラックミュージックをベースにした表現をしているという以上に、彼らの表現には共鳴する部分があると感じる。どんなサウンドプロダクションをまとおうとも、どんなイメージ付けを施そうとも、いつでもその真ん中にある「核」の部分。そして、向井の最新作『Pure』がそうであったように、iriの最新アルバムである本作もまた、その「核」にぐっとフォーカスした、これまででもっともパーソナルな匂いを放っている。  

 

では、iriが歌う「核」とは何かといえば、それはたとえば日々暮らしていく中でふとした瞬間に感じる空虚だったり、何かが足りない感覚だったりするのだが、本当に大事なのは、その裏側に常にある種の「純粋さ」が漂っているということだ。そのウェットな声の質もあいまって、iriの歌はリスナーの心の隙間にじんわりと侵食するように入り込んでくる。親密に寄り添うようでありながらどこかで安易な共感を拒絶するその声は、心の空洞を埋めるというよりも、人の根本的な孤独さを暴き出すような響きをもつ。それが決してネガティヴな印象にならず、むしろ聴く者を安心させるような作用をもつのは、その孤独が純粋な想いに裏打ちされたものであることが、その言葉、その歌いぶりから伝わるからだ。まさに「会いたいわ」に込められていた、どこまでも純粋で、その純粋さゆえに行き場を失った感情、それこそがiriの表現の真ん中にあるものなのである。  

 

アルバムのオープナーにしてタイトル・トラックである大沢伸一とのコラボレーション曲「Shade」は、真夜中の静けさを思わせるピアノのコードから始まる。この「静けさ」が今作のムードを象徴している。ケンモチヒデフミやSTUTSなどこれまでiriのプロダクションを担ってきたクリエイターに加え、tofubeats、grooveman Spot、Shingo.S、三浦淳悟(ペトロールズ)、澤村一平 & 隅垣元佐(SANABAGUN.)と多彩な面々が集結した今作だが、どの曲もiriの「純粋な孤独」に呼応するように抑揚の効いた音を聞かせてくれる。ポップな「Sway」のような曲ですらそうだ。その点では、前作『Juice』とは対極にあるといってもいい。  

 

どのようなディスカッションがあったのかはわからないが、歌詞と歌だけでなくサウンドの隅々までiriというアーティストの思想と信念が行き届いているという意味で、この『Shade』は今まで以上に――あるいは原点に立ち戻るように――「シンガーソングライター的アルバム」といえるのかもしれない。彼女のキャリアの出発点でもあるアコースティック・ギターの弾き語りのように、つまりその手で弾かれる弦と同じように、今作のトラックは彼女自身なのだ。

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