この音が鳴っている必然
今年1月にベーシストが脱退してから初となるシングル。プロデューサー蔦谷好位置と初めてタッグを組み、文字通り新体制での第一歩を刻んだ作品だ。
表題曲「Ahead Ahead」はパワフルな大陸的ビートとブライトなギターのリフが曲をリードし、そこにシンガロング上等なメロディが重なっていくスケールの大きなダンスチューン。抑制の効いたヴァースからドラマティックなコーラスへと展開するその構成自体はまさしくEDMのそれだが、もちろんそれ自体は方法論として新しいものというわけではない。だが、肝心なのはなぜこのタイミングで彼らがEDMのテンションとエモーションを必要としたかだ。これが単に「新しいことをやってみよう」とか「メインストリームを狙ってみよう」というような意図のもとに生まれたものではないのは、雨のパレードというバンドを少しでも知っている人ならばわかるだろう。
雨のパレードの音楽性を一言で言い表すのは難しいが、初期から一貫していたのはブラックミュージックからの影響だ。ルーツ感のあるグルーヴをエレクトロニック・サウンドと掛け合わせてモダンにブラッシュアップするという意味で、海外のネオR&B勢と共振する部分もあった。昨年リリースされたアルバム『Reason of Black Color』はタイトルからしてもその最初の集大成といっていい作品だったといっていいだろう。ある意味ではマニアックとすらいえるそのスタイルでここまで彼らが戦ってこれたのは、彼らが――というよりもフロントマンの福永浩平が、高い美意識と強い自意識をもつ生粋のアーティストだったからだと思う。「Tokyo」、「You」、「Shoes」……その時々の自分たちのいる場所、置かれた状況を素直に、そして少々ナイーヴに、福永は曲にしてきた。それはこの「Ahead Ahead」にしてもそうだ。歌詞には少しセンチメンタルに自分たちの歩みを振り返りながらも〈あの高く飛ぶ鳥のように Ahead /もう迷わない僕たちは Ahead〉と前に進む強い意志がストレートに刻まれている。
だが、その思いを乗せるにあたり、雨のパレードはR&Bやソウルといった自分たちが培ってきた要素ではなく、アッパーでパワフルな「この音」を選んだ。しかも蔦谷好位置という当代きっての敏腕の力を借りて。もちろんさまざまな背景や文脈のなかでそうなったのだろうし、このビートやサウンドは今現在の福永の興味の反映でしかないのかもしれない。だがあえて言うなら、この曲で福永は初めて「音楽の力を頼った」のではないかと僕は勝手に思っている。
ベーシストがいなくなる、ということは、実際のパワーバランスやバンドの内情はともかくとしても、バンドのメカニズムとして大きな変化であることは間違いない。とくに雨のパレードの場合、生音のベースがいることは非常に重要だった。先述したとおりブラックミュージックは彼らの音楽において重要な要素であり、それを体現していたのはまさに阿吽の呼吸のグルーヴだったからだ。そのピースが欠けるということは、バンドにとって想像以上にタフな状況だったのではないかと想像する。その、少し大げさにいえば「危機」を乗り越えて前に進むためには、これまでの雨のパレードにはなかったパワーブースターを搭載することが必要だった。それがこのプリミティヴでハイパーなビートであり、蔦谷という水先案内人だったのではないか、と思う(「Ahead Ahead」では須藤優がベースを演奏している)。今作にはカップリングの「/eɔː/」、そしてNeetz(KANDYTOWN)、小林うてな、荘子 it(Dos Monos)というクリエイター勢による過去曲のリミックスも収録されている。表題曲に対してとことんドープに振り切ったこれらの楽曲を聴いていると、雨のパレードというバンドの重心の位置を改めて確認しているような印象を受ける。
いずれにしてもこれが第一歩。新たに描かれていく物語の行方を、期待を込めて追いかけていきたい。