親愛なる「カウボーイ」へ
マック・デマルコというシンガー・ソングライターには、「デマルコは今日もデマルコしてるなぁ」と苦笑しつつも温かく見守りたくなるような独特のムード、ジョークとシュールをまとった清々しいまでに脱力した佇まいがある。
昨年のフジ・ロックのステージでも、彼はTシャツ半パン姿に愛用のHARD OFFのストラップを装着して登場。オープニングSEは『スター・ウォーズ』のテーマ曲、スクリーンには『MOTHER2 ギークの逆襲』の映像が流れ、そこにチープなヴェイパーウエイヴ的シンセがシャラシャラと鳴り重なる。デマルコはといえばいきなり逆立ちしたり、ステージ袖のスタッフとおしゃべりしたりとやりたい放題で、そもそもステージには「友達だよ」と紹介された人たちが常時10人程度たむろしているという、どこまでもゆるゆるのパフォーマンスを展開していた(しかしそこにいきなりポスト・マローンがマラカス片手に乱入し、ビール片手にのんびり観ていたオーディエンスを唖然とさせたりするので侮れないの)。そう、マック・デマルコと書いて「脱力」「ユルい」と読む彼のイメージは揺るぎないものだが、同時に私たちはそんな彼の内側に、驚くほどの真摯とピュアネスが息づいていることも知っているはずだ。
アリエル・ピンクを後継するローファイ・サイケデリック、当時の北米インディ・シーンでプチ・リバイバルしていたソフト・ロックのエッセンスを兼ね備えた出世作『Salad Days』(2014)以降、コンスタントに作品を出し続けてきたマック・デマルコにとって、『Here Comes the Cowboy』は自身のレーベル(Mac’s Record Label)からの初リリースとなるニュー・アルバムだ。
約2週間で作ったというから、シンプル&クイックなレコーディング・マナーは本作でも相変わらずだ。しかし、前作『This Old Dog』がギミックを削ぎ落としたミニマルなフォーク・アルバムだったのに対し、たどたどしく弾かれる“Nobody”のアルペジオといい、チャカポコとロービットな“Finally Alone”のリズム・トラックといい、鳥の鳴き声をフィールド・レコーディングした“Preoccupied”といい、本作はもっと不規則かつ散漫な足取りで進んでいく。
二日酔いのプリンスのようなファンク・チューン“Choo Choo”や、ルーファス・ウェインライトを彷彿させるピアノとレトロ・サイファイなシンセが絡み合う“On the Square”などは思いっきり新機軸のナンバーなのだが、こうして次々に浮かぶアイディアをとりあえず試していくものの、そのどれもが完成には至らずフェードアウトしていくような曖昧さに満ちているのが本作の特徴だ。躊躇いなくレイドバックできたかつての彼の暖かなローファイ・サウンドと比較すると、同じローファイでも本作の描きかけで不安定なそれには、少量の虚しさと茫洋たる哀しみが漂う結果になっている。
親友のマック・ミラーを亡くしたショックが本作に影響を与えたことをデマルコは認めている。ミラーに捧げられた“Heart To Heart”は二人で過ごした日々について歌ったナンバーで、哀しみを直接綴った歌詞ではないにもかかわらず、手の指の隙間からこぼれ落ちる砂のような彼の喪失感がひしひしと伝わってくる。
デマルコがカナダからLAに移り住んで数年、西海岸のレイドバックした陽光は確かに本作にも差し込んでいるのだけれど、彼の心象のプリズムを透過することで複雑に屈折したそれは、思わぬ場所に陰りを生んでいくのだ。ちなみにアルバム・タイトルの「Cowboy」とは、デマルコが「親しい仲間」に呼びかける際の口癖だったそうだ。