『cold』
The fin., 小袋成彬
[label: HIP LAND MUSIC/2019]
まさに邂逅という感じ
リリースからちょっと時間が経ってしまったのだが、どうもちゃんと伝わっていないのではないかという気がするので改めて書く。The fin.と小袋成彬が共作した「cold」という楽曲はめちゃくちゃシンボリックな作品である。何がシンボリックなのか。完全に不定型でボーダレスで、なおかつ「新しくも古くもないところ」だ。歴史的文脈からも文化的文脈からも切り離されていて、地政学とも無縁。当然ジャンル論とも関係ない。さらにいえば、The fin.と小袋がこれまで作ってきた「モノ」との相関も薄い。長い物語の1ページでなく、物語の狭間に差し込まれたインタールードのような楽曲だ。
たまたま知り合いだったYuto Uchinoと小袋というふたりのクリエイターがたまたまタイミングが合ってロンドンで再会し、たまたまそこで聴いた音楽や街の空気にインスパイアされ、ひとつの曲が生まれた。だからこれはふたつのプロジェクトのコラボレーションとして計画された何かというよりも、偶然のいたずらといったほうが近いものだと思う。もっとも、世の中のほとんどのことが「たまたま」なのでそれ自体は特別なことではないのだが。
ミドルテンポの4つ打ちのビートと浮遊感のある電子音、そこに環境音がサンプリングされ、リヴァーブの効いたYutoの歌が乗る。ポップスではないし、かといってクラブミュージックでもない。1990年代的でもあるし、2000年代的でもある。明るいノスタルジーと暗い未来が同居している感覚は確かに現代的かもしれないが、この曲のサウンドも歌詞も、特定のメッセージや思想を伝えるために作られたものではないことは、イメージの羅列のような歌詞や、一定のモチーフを反復するサウンドデザインからも明らかだ。
しかしそんなこの曲のありようは、逆説的にThe fin.と小袋成彬、2者の本質を突いているようにも思える。それは単に音楽のスタイルにおいてという意味ではなくて、彼らがともに「どこにも属さない/なじまない」ことで自身のクリエイションを確立してきたアーティストだからだ。The fin.も小袋も、いわゆる「シーン」や「界隈」の中でポジションを作ってきたという前歴がない。Th fin.のサウンドはつねに「洋楽的」などと評されてきたし(それはつまり「非・邦楽的」という意味だ)、実際一面的にはそうかもしれないが、たとえばロンドンに拠点を移したところでそこが「居場所」になることはなかった。一方小袋も、2017年に主宰するTOKYO RECORDINGSを休止させたことからも明らかなとおり、日本の音楽業界の慣習やシステムと距離をおいて、よりインディペンデントな創作活動に向かっている。
もっともそれは「クリエイションの自由云々」みたいな単純化された話ではないし、そこにはやむにやまれぬ事情もあったはずだが、そんな背景もひっくるめて、「ice wave」に乗り漂っているこの曲の主人公は彼ら自身であり、「I do nothing but fall in」という最後のラインはひとつの態度表明である――と思えるのだ。
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