確かな熱を内包しつつも冷静な、2020年夏の現状報告
昨年夏に発表された2枚組、30曲収録 (!) の5枚目のアルバム『THA BLUE HERB』から約1年という早さでリリースされた、5曲入りの最新作。春以降にアナウンスされていたフィジカルなライブはコロナ禍で次々に中止となってしまったが、6月には北海道からの無観客配信ライブを完遂した彼ら。歩みを止めることはない証としてこの夏に届いた新たな音源のジャケットには、路上に打ち捨てられたマスクがそのタイトルを象徴するように写り込んでいる。
このタイミングでの発売とあって、やはりアルバムと同タイトルの “2020” は特に説得力を持って響く。地に足をつけて歩くようなミドルテンポのシンプルなトラックに、語りかけられるようにラップされるのは安易な希望の言葉ではない。嘆きでもなく、開き直る訳でもないが、いたずらに不安を煽る訳でもない。事実と、そのままの逡巡も含め、確かな熱を内包しつつも冷静な現状報告だ。そして優しさと力強さが滲むBOSS THE MCの声に、しっかりと前を見据えた眼差しに、背筋が伸びる。
個人的な思いになるが、今年の春、筆者の職場であるリキッドルームは4ヶ月ほど完全に営業を止めていた。緊急事態宣言などを経て一変した世界で聴く音楽は、どうしてもその時の自分の心持ちが反映されてしまい、焦燥というか、その楽曲にはないはずの含みを持ち、いつもとはどこか違った響き方をすることが多かった。早い話、何を聴いてもピンと来ない時期があったのだが、この曲を聴いて、そこに記された「いま」があまりにもリアルで、ぐっと現実に引き戻される感覚があった。
何が真実か分からないままに溢れかえるタイムラインやニュース。幻となったオリンピック。うんざりしてしまうくらいに迷える資本主義のこの国で、それぞれが何をするべきか?何ができるのか?
THA BLUE HERBの変わらぬメンバーとスタンスによってアップデートされていく、「いま」を反映した音楽は、考え続けるきっかけのようなものをくれる。より個人が活き、生きるために、それぞれが思考し続け、そして他者を尊重し思いやるということ。
最終曲として収められている “バラッドを俺等に” は、彼らが日常としてツアーで各地を訪れたときの追想が描かれている。さらけだされたリアルなリリックに、染み入り、胸が温かくなると同時に、それはライブという表現への渇望と変わる。
いまはまだどんな形になるのか想像がつかないが、ここに収められた楽曲たちがライブで披露される日のことを楽しみに待ちたい。
▶︎We will meet again
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