Spangle call Lilli line
音がカラダをほぐし、心から揺れるライブ
text by 中山夏美
Spangle call Lilli lineが約5年ぶりにワンマンライブを行なった。8月8日にライブ告知をするやいなやチケットはあっという間にSOLD OUT。当日券の販売もなし。チケットが買えずに、悔しい思いをしたという声も多数聞こえてきた。
10月の3連休初日。そこに集まった、幸運のオーディエンスたち。18時を少し回り、お酒もいい感じに回ってきた頃、5年ぶりにSpangle call Lilli lineがステージへと現れた。オリジナルメンバーの3人に加え、サポートメンバーが入った7人編成だ。静かにギターが鳴り、1曲目は「E」から始まった。2曲目の「Lilli disco」が終わると、早速のMCタイム。スパングルのライブを初めて見るが、音楽の雰囲気とMCで話す彼らのイメージはだいぶ違った。ストイックにただひたすら音を鳴らすだけのライブかと思いきや、藤枝を中心としたMCが想像以上におもしろい。このギャップ。彼らの魅力って、そういうところにもあるのか、となぜだか感心してしまった。
そして「seventeen」が始まる。曲が鳴った途端、180度会場の雰囲気が変わった。派手な演出があるわけではない。青のライトで照らされる中、彼らはひとつひとつ音を鳴らしている。それがこんなにも気持ちいいなんて。「いくぞ!」なんて煽るような言葉なんていらない。ただその流れてくる音楽を素直に受け止めればいい。久しぶりのスパングルのライブに見る側も緊張していたのか最初はステージを見守るだけの人が多かったが、MCですっかり和んだようで、だんだんとカラダが揺れているのがわかる。「mai」、「ff wave length gg」、と続いて最新アルバムに収録されている「azure」を披露。そして8曲目の「cast a spell on her」からはピアノも加入。スパングルの特徴でもある“重なる音”がさらに混ざり合っていく。
「“telephone”」のあと、「eye」で本編終了。全部で10曲の短いセットリストだ。時間にしたら1時間ちょっと。しかし、なんだろうか。この幸福感。心を揺らす音がまだカラダの中に流れている。
アンコールでは大坪がソロで「inc.」を歌った。大坪のメロウで神秘的な声がピアノの音と混ざって、全身に響き渡る。彼女の独特な空気感は、一気に世界を持っていってしまう。飲んでいたビールがさらに深いところまで回ってきたところで、メンバー全員が再びステージに戻ってきた。「今日は出しきりました」という彼らは最後の最後「nano」で5年ぶりのライブを締めくくった。
新曲を出さない、ライブ活動も一切休止していたスパングルだが、ファンは彼らを変わらずに愛していた。どこからか溢れ出している幸せなオーラに、この日を今か今かと待ちわびていたことが伝わる。藤枝が本編のMCで「年金をもらい始めたら、ライブを頻繁にやります」とコメントしていたが、本当にそれをやってくれそうな気がする。そしてそれをファンは今と変わらない気持ちで待っているだろうと思った。
藤枝憲[Spangle call Lilli line] INTERVIEW
Spangle call Lilli lineが約5年ぶりにオリジナルアルバムを11月11日にリリースする。1年弱かけて作ったというアルバムのタイトルは「ghost is dead」。メンバー全員がデザイナーやカメラマンの仕事を持ちながらバンド活動を行なう彼らにとっての音楽とは何か。アルバム制作の秘話をメンバーのひとり藤枝憲さんに聞いた。
「現状、この最新作がスパングルの1番だと思っています」
Interview by中山夏美
── 実に5年ぶりのオリジナルアルバムですが、なぜこのタイミングだったんですか?
藤枝みんな仕事も家庭もあって、それぞれが充実しているから、全員のテンションが一致するタイミングって難しくて。今回ようやく全員のやりたい気持ちが一致したので、出そうということになりました。本当は去年、出したかったんですけど、これだけ前作からの期間が空いちゃうと、なかなか作り始められなくて。みんな腰が重い重い(笑)。それでやっと去年の年末に「そろそろやろうよ」って改めてメンバーに言って、年明けから制作に入ったんですよね。
── 今年はずっとアルバム制作をされていたんですね。
藤枝そうそう。こんなに制作に時間がかかったのは初めてですね。今までは大体2、3か月で作っていたんで。
── 制作に時間がかかった理由はあるんですか?
藤枝今までは、アレンジが完成した段階で4、5日間ぐらいでレコーディングをしていたんですけど、このアルバムは曲作りとアレンジと録音を平行しながら作っていったので時間がかかりましたね。シンプルで、ミニマルにしたいって大きなテーマがあったので、それに合わせて音を組み替えたり、削ぎ落としたり、また入れたりとか。最近、オールインワンで全部ひとりで作っている人もいるけど、僕たちは合気道みたいな感じでメンバー同士お互い間合いを図りながら、探り探り作っているんです(笑)。スタジオに入る直前でも、まだ曲が完成してなくて、ザックリとしたものに音を重ねたり、リズムをつけたりして完成させていく。だから、できる頃には全然違うものになっていたりして(笑)。譜面があって、それを詰めていくっていうやり方ならもっと楽だと思うんだけど、僕たちの場合は粘土だけあって、それがたまたま顔に見えるから顔にしていこうかって進めるんだけど、最終的には花瓶が完成しちゃいました、みたいな感じです。BPMもコード進行も平気で変わっちゃうことがあるから、ポッと新しい人が入ってきたら、ついていけないでしょうね(笑)。
── メンバー同士の信頼関係が重要になる制作の仕方な気がします。
藤枝サポートメンバーも10年ぐらい一緒にやっているので、相手のレスポンスを見ながら「ちょっとこれはやりすぎかな」、「もっとタイトにしたほうがいいかな」とかある程度は直感で合わせていますね。僕以外、思っていることをあんまり口に出すタイプではないし、完璧に誰かがディレクションするということはないんですよ。今日はダメだと思ったら、その日は終わりにして寝かすことも多いし。みんなが「いいな」って思ったときは、そういう空気になりますしね。時間はかかるけど、楽しいですよ。
── ミニマムでシンプルな曲にしようというテーマは、なぜ生まれたんですか?
藤枝方向性が決まるまでは、かなり試行錯誤していて。メンバーやサポートといくつか試していく中で決まりましたね。最近、SNSとかもあるし、音楽や音楽自体の情報量もけっこう多いと思うんですよ。J-POPもアイドルの曲もボーカロイドまであったりして。だから自分たちの作品はもうちょっと空間が楽しめるものがいいなと思ったんですよね。シンプルな音数でアルバムを作ることに不安はあったんですけど、みんなもそういうモードだったみたいでやっていったら足し過ぎない感じが気持ちよかったんですよ。
── 5年も音楽をやらないと物足りなさとかないんですか?
藤枝うーん。作りたいなっていうゲージがマックスになるまでは、やらないほうがいいなと思っていて。どうしてもやりたいって思うまで楽器も触らないですしね。その分、やり始めたらいい感じに音楽と向き合えると思うんですよ。メンバーともよく話すんですが、バンド1本でやっていこうって思ったことは一度もなくて。たぶん音楽制作がルーティンになってしまうことが嫌なんですよね。普段、デザインの仕事をやっていますが、作品を作りたいっていうよりクライアントワークとして仕事をするほうが好きなんです。でも音楽は、作品を作りたいって思う。若い頃は、毎年アルバムも出していたし、1枚作ったら、またすぐ作りたいって思っていました。でも今は、納得できるものを作るために、じっくり音楽ができる環境を維持することを大事にしていきたいですね。
── 完成したアルバムを聞いてみて、藤枝さんの感想はいかがですか?
藤枝メンバーの笹原くんも言っていたけど、過去の作品の全部の要素が入りつつ、今の自分たちの精神状態に近いものが完成したと思っています。せわしなくやっていた若い頃とは違って、ミニマルで研ぎ澄まされていて。ポップさもキャッチーさもうまく総合的にミックスされている。これまでアルバムが完成した後に、これもいいけれど過去のあのアルバムもいいな、とか、やはりベストはアレだなとか思っていたんですけど、今回は素直に最新作が1番いいなって思う。自分たちが今やりたいものが形になったと思います。今回、共同プロデュース&ミックスに神田朋樹さんに入ってもらっていて、最終的な仕上がりもすごくいいものになりました。
── 今回はLIQUIDROOMでのライブもあり、久々に露出してくれたことがとてもうれしいです。これを機に露出する機会が増えたりは……?
藤枝12月にTK from凛として時雨とツーマンをやるんですが、それをやったらしばらくやらないんじゃないかな……。今回のライブのリハで久々にギターを担いで玄関に立ったときに「これが日常だったらキツイな~」って思っちゃって(笑)。やっぱり気持ちいいテンションでやろうってならないといい作品は作れないですしね。次のライブで「音楽をやりたい」って気持ちのゲージを使いきって、また5年ぐらいかけて貯めたいと思います(笑)。
Spangle call Lilli line、ニューアルバム「ghost is dead」
2015.11.11 On Sale
PECF-1128 felicity cap-241 定価:¥2,700+税 全11曲
01. azure 02. echoes of S 03. ghost in a closet
04. escort & landing 05. feel uneasy 06. dawn draw near
07. iris 08. evoke 09. anthology of time 10. constellation 11. sogna
http://www.lilliline.com/