ミツメ
静かな興奮が会場を包んだ一夜、ミツメ「ささやき」ツアーファイナル
サード・アルバム『ささやき』のツアー・ファイナルとして迎えたミツメにとって初のリキッドルーム・ワンマン公演は、実に清々しい夜となった。きっと多くの来場者が自分と同様に、静かな興奮を胸に帰路についたのではないだろうか。
実はこの日、開演時間の直前にバタバタと会場についた為に、果たして彼らがどんな面持ちでステージに登場したのか見逃してしまった。1曲目の「クラーク」が聴こえてくる中を小走りにホールに駆け込むと、既に会場は後方までギッチリと満員に近く、どうもこれはステージ前には近づけそうにない。客席後方の人垣を縫いながら続く「ささやき」を聴き、ステージ正面、PA卓の前のあたりに隙間を見つけて定位置を確保した。
3曲目「うつろ」を終えたところで、この日の最初の川辺のMCが入る。「いつも通りの感じではじめちゃいましたけど…」。いやいや、どうもスタートはいつも通りではなかったと突っ込みを入れておこう。ここまではバンド側の緊張感が客席にも伝播してくるようなぎこちないスタート。「うつろ」で持ち直したようなところがあり安心したけれども、こんなにガチガチの彼らを見たのは初めてだったので、ちょっと驚いた。
MC後はニュー・アルバム冒頭そのまま「コース」「停滞夜」と続く流れ。「停滞夜」のスロウ・ディスコ・ビートにオーディエンスも少しずつ身体を揺らし始めると、彼ら自身の緊張も解けたのか、いつもの平熱グルーヴを完全に取り戻して、こちらもホッとする。
そして、「春の日」から「fly me to the mars」という前作『eye』のCD同様の展開に、お客様さんの意識がまたギュッと集中していくのが分かる。とくに「fly me to the mars」のマジックは健在で、この日も同曲を境に会場のムードには、どこか恍惚とした空気が漂いはじめていた。かくいう自分もちょっと目頭が熱くなってしまう…。
リキッドルームでのライヴをバンド活動のひとつの目標としてイメージしていたという川辺は、この日いつになく饒舌だった。「何日も前からソワソワしてうるさいって言われていて。いっぱい集まってくれてありがとうございます。よかったー」。そんな川辺のテンションに釣られたのか、ファーストの名曲「タイムマシン」の演奏後には、ベースのナカヤーンが「ファーストの曲、感慨深いですね」とMCを入れる。川辺以外のメンバーがライヴで喋る機会はかなり稀で、ファンもバンドも動揺して、ちょっと会場が可笑しな空気になってしまう。結局、後のMCではドラムの須田も挨拶を促されて喋っていたけれども、ステージ中央の大竹だけがどんなに促されても頑なに黙り通す…。ミツメは口数の多いバンドではないのだけれど、この日は、そんなやりとりの中に各々のキャラクターがよく現れていて面白かった。
「タイムマシン」以外にも「三角定規」「サマースノウ」と、ファースト・アルバムからの楽曲には歓声があがる。『ささやき』のツアー・ファイナルという場ではあるけれども、前述した川辺のリキッドルームへの思い入れもあるだろうし、久々のワンマンでもあり、バンドにとってもファンにとっても集大成的なセレクトとボリュームを備えたセットリストが組まれていたように思う。
ライヴは佳境を迎え、盟友であるザ・なつやすみバンドの女性メンバー陣、中川理沙(キーボード)、村野瑞希(コンガ)をゲストに迎えて、見た目的にもサウンド的にも華やかになった「Paradise」「ESC」、そして川辺だけでなく須田とナカヤーンにもボーカル・パートがある「ボート」、川辺と中川の男女デュエットがきけた「3年」とバラエティのある展開で、長丁場を飽きさせない構成。
ゲストが下がったのも束の間、「煙突」「Cider Cider」という流れに会場の熱気はさらに高まり、いよいよ終盤という雰囲気が出来あがる。本編の最後は、その盛り上がった気分そのままに疾走する、でもちょっと意外な「Chorus」(※なんというか自分の中ではB面の隠れ名曲みたいな扱いだったの)でアッサリとした印象の幕引き。当然のように、すぐさまアンコールをもとめる歓声と手拍子が起こる。
そしてアンコールはカーネーションのカバー曲「YOUNG WISE MEN」でスタート。コンピレーションCDとスプリット7インチのみに収録された楽曲で、自分はライヴで演奏するのをこの日に初めて聴いた。音源を未聴のオーディエンスも多かったと思うのだが、タイトなグルーヴと疾走感のある好カバーで、彼らのオリジナルといっても気付かないくらいよく馴染んでいた。そして「ミツメのテーマ」「クラゲ」という彼らの原点ともいうべき2曲が演奏されて大団円の終演。
全26曲2時間というボリュームだったこともあってか、終演後は何か放り出されたような余韻があり、そのフワフワとした余韻と興奮に浸りながらひとり電車にのって帰路についた。演奏する彼らの佇まいこそ飄々と見えたけれども、珍しく高揚した気持ちを隠さない川辺と、それをはにかむように見守るメンバーの笑顔からは、バンドの結束と充実感が滲み出ていた気がする。ミツメのキャリアを初期から支えてきたファンたちの感慨に、『うつろ』や『ささやき』で彼らを発見した新しいファンたちの熱視線がミックスされた会場の雰囲気もまた然り、ポジティブで温かかった。皆その前途に期待せずにはいられないのであろうなと、心から思う。素晴らしい夜でした。
ミツメの過去全作品が、Bandcampにて販売開始されました。
今回販売されるのは、1stアルバム「mitsume」から最新盤「ささやき」までのCD4作と、現在廃盤のカセット / 7inchシングル「fly me to the mars」の計5作品です。
また、6月30日までの期間限定で、全曲がフル試聴可能となっています。
未聴の方も、この機会に聴いてみてはいかがでしょうか。
http://mitsume.me/sasayaki/