奇妙礼太郎トラベルスイング楽団 / キセル
すごく、すごーく雰囲気が良かった、キセルと奇妙礼太郎トラベルスイング楽団の2マン
8月初旬の、いよいよ夏本番といった頃合いの日曜日。リキッドルームの9周年アニヴァーサリーとして開催されたのは、キセルと奇妙礼太郎トラベルスイング楽団という、ありそうで無かったとっておきの2マン! この日は演者と集まったお客さんの距離感がぐっと近くて、簡単に言ってしまえば、すごく、すごーく雰囲気が良かった。それは演者、観客、ステージ、それら全ての組み合わせの妙、とでも言えば良いのだろうか。
先行のキセルは辻村豪文・友晴の兄弟と、キーボードに野村卓史(from グッドラックヘイワ、NATSUMEN)、ドラムに北山ゆうこ(from lake)が加わったバンド編成。ステージに登場するやいなや大歓声で迎えられ、ひときわ大きな『おにいちゃーん!』という客席からの声に会場がどっと沸く。
のっけからお祭りムードが漂う会場に奏でられた1曲目は“ナツヤスミ”。橙色の一灯照明が4つ浮かび上がるだけのシンプルなステージから、ちょうど深呼吸するのと同じくらいのゆったりとしたリズムで儚く切ないメロディーが会場に広がり、一気にキセル・ワールドに染め上げてしまう。続いての“柔らかな丘”では徐々に祝祭感が広がり、優しい光に包まれた。豪文から「こんな歓迎ムードで嬉しいです。キセルなりのダンスチューン!」と披露されたのはキャッチーなサビが印象的な“夢のいくら”。カントリーからポップ、サイケまで様々な要素を感じさせつつも、どうやったって『キセル』としか言えない独自のサウンドで紡がれていくライヴ。それは確かなリズムを刻む北山のドラムとさり気なく彩りを添える野村のキーボード、辻村兄弟の味わい深いコーラスワークが相まって、素朴で暖か、というだけではない、孤独や悲哀まで内包して展開されていく。
いつだって、キセルの音楽は私たちの日常と地続きだ。日常の延長線上に存在する非日常だからこそ、醒めながら見る夢のように、聴き手の心象風景と絶妙にリンクしながら心地良く寄り添ってくれるのだろう。
ラストに演奏されたのはライヴではお馴染みとなってきた“今日のすべて”。軽やかでポップなメロディーを凛と響かせて、キセルは去っていった。
後攻となった奇妙礼太郎トラベルスイング楽団は、鍵盤、ギター、ベース、ドラム、パーカッション、ホーン隊、そしてヴォーカルを担当する奇妙礼太郎を含めて総勢11名という、正に“楽団”と呼ぶに相応しい大所帯バンド! スタート・ナンバーの“タンバリア”が鳴らされた瞬間から熱量がぐっと高まり、奇妙は「オーイェー!」だけでコール・アンド・レスポンス出来ちゃうくらいに会場を沸かせてしまう。キセルのシンプルなセットとは対照的に、客席を力強く巻き込みながら展開していくステージはとても賑やかだ。
ジャズと歌謡を往来するダンス・ロック・ミュージックを有機的なアンサンブルで奏でるバンドは、1人1人が主役になれるくらいにそれぞれが聴かせてくれる。しかし、やはり特筆すべきはフロントマンである奇妙礼太郎の、時に伸びやかに、時に絞り出すように、そしてどこまでも前のめりに、感情を爆発させるように“うた”を歌い上げる声と立ち回りの求心力である。彼は全くの無防備で、思い切り笑いながら泣きながら、歌っているように見えた。舞台を駆け巡ってソウルフルに歌い上げるその様は、とても泥臭く人間臭い。また曲間のMCでは愉快軽快な大阪弁による小話を次々と繰り出し、会場はウケっぱなし、終始盛り上がりっぱなしである。
後半ラストとして披露された“星に願いを”、“オー・シャンゼリゼ”の2曲ではこの日1番の一体感とグルーヴで、何度も何度も大合唱が巻き起こった。彼らのサウンドの前では自然に身体が動き、心が躍る、声も上がる。子供のような笑顔で「アイム・ロックン・ローラー!」のコールを繰り返す奇妙に、バンドのメンバーからも終始笑顔が絶えず、それはなんとも素敵な光景だった。
アンコールに名曲“君が誰かの彼女になりくさっても”を歌い上げ、最後エビ反りジャンプの着地に失敗して走ってステージを去るところまで、純度の高い、美しいアクトだった。
この日出演した2組に共通しているのは、人柄、人間性が音楽にしみじみ滲み出ていることだと思う。そのスタイルは違っても、2組の奏でる音楽はどちらもありのままで、正直な感じがする。だから聴き手も両者に対して、ありのまま、開いた心で素直に感動できるのではないだろうか。そしてこういった素晴らしい一夜を共有出来るのではないだろうかと、そう思う。カッコ付けない、カッコ良さ。正直な音楽っていうのは、心を震わせるのだと思います。
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11/15(金)には LIQUIDROOMにて奇妙礼太郎トラベルスイング楽団 ワンマン公演も決定!
前売チケットは9/14販売開始!
奇妙礼太郎トラベルスイング楽団 ワンマンライブツアー2013
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