毛皮のマリーズ
殺気から愛情へ。ロックンロールという愛の讃歌
「俺はみんなを愛しています。今までも愛する人を幸せにするためにロックンロールをしていたし、これからもそれは変わらない。嫌われる音楽より良いでしょう? 一人でも、より多くの人を幸せにできるような音楽を、ロックンロールを続けていきます」ライブの終盤で志磨は言った。会場は沸きあがる拍手で満たされた。
ワンマンシリーズ、と称して日本中を回ったツアーの充実ぶりをここぞと披露してくれたツアー最終日。志磨は「古いロック」と言ったが、グラムロックの気だるさや妖しさ、パブロックを思わせる乾いたギター、ガレージ・ロックと呼ばれる荒さも持ち合わせ、全てをぶち込んだ結果、“ロックンロール”としかいえない音楽になっている彼らの音楽。そこに至るまでに昇華された音楽が、まさにRestoration―復興というタイトルのように、マリーズに形を与えられた音楽の中で輝いていた。本日はソウル・フラワー・ユニオンから奥野真哉(Key)が様々な曲に参加。ツアー最終日なのでスペシャルに、と「それすらできない」にNATSUMENのホーン隊、稲田ヌボンバ貴貞(Tenor Sax)、加藤雄一郎(Alto Sax)、カッキー(Trumpet)の三人が登場。バンドサウンド以上の華やかさが添えられた。
幕開けから終演まで熱量の変わらないライブだったが、特に『ビューティフル』は熱かった。志磨は今回のツアーで初めてお客さんを可愛いと思った、と言う。若かった頃は数人の、腕を組み壁に寄り掛かる年輩のお客さんに対し「全員ぶっ殺してやる」と、殺気だった演奏を繰り返した。逆光でフロアの様子が見えないからステージの向こう側が怖かった。「でも今は怖くない。皆が本当に可愛く思える。だって君ら、僕と同じで、自分は誰とも違うと思っていて、理屈っぽくて、回りくどくて、話が長くて、それでちょっと頭がいい。でも、素直すぎて痛い目見たりするんでしょう。そんな僕みたいな人がこんなに集まるなんて。同じ穴の狢というんでしょうかね」と茶化しながらもフロアへの愛情を素直に打ち明けた。それまでの演奏でも十分伝わっていたと思うが「そんな君たちにこそ、よくわかってもらえると思う」と添えて歌い始められたこの曲には一層、志磨の愛情が強く表現されていた。お客さんも全身でライブを見る喜びを表現していた。キッズは飛び跳ね、おじさんはモンキーダンスで踊り狂い、お姉さんもいきなり暴れだす。憧れたくなる魅力を毛皮のマリーズはフロアに提示し、また、魅了されたお客さんを引き受ける力をフロアから貰っている。一方通行では決してない、感情の応酬が強く感じられる一曲だった。
「寂しがり屋でしつこいところまで僕と同じだね」と応じた二度目のアンコール後も志磨はステージ袖に名残惜しそうに留まっては、すぐにステージに戻り、今現在思っていることを素直に口にした。「より難しいことに挑戦したいだけ」というメジャーデビューの理由、そして冒頭に書いた意思表明。「変わったと言われたけど、変わることが悪いのだったら、何かごめん。大人になるのが悪いのだったら、何かごめん」それでも人を幸せにする“ロックンロール”を続けていくと、フロアに向き合って彼は言った。変化するとしても、大人になったとしても、その時々に彼らにとってストレートなロックンロールで魅せてくれるのだろう。そう思わせてくれる力強さが言葉に溢れていた。
公演終了後、客電が点いたフロアには『愛の讃歌』が流れていた。毛皮のマリーズの愛に溢れたステージが、ツアーが終了した。
(渡邉祐子)