トクマルシューゴ
全公演SOLD OUTも納得、トクマルシューゴ感動のツアーファイナル!
アルバム『PORT ENTROPY』も絶好調、そのアルバム・ツアーも全公演ソールドアウト! と飛ぶ鳥を落とす勢いのトクマルシューゴ。彼の全国ツアー・ファイナルとあって当日、会場には沢山の聴衆が詰め掛けた。
まずは独特な雰囲気を醸す倉林哲也のアコースティック・ライヴ。2本のギターとチェロが紡ぐ弦の三重奏……会場中が彼の優しい声に包まれる。この心地よいゆるさ……さながら和製ペンギン・カフェ・オーケストラ※注(あ、3人ならトリオか?)といったところだろうか。ギターとの相性もそうだが、チェロと強く芯の有る声質とが絶妙に絡み合う。そのユーモア溢れる歌詞や曲目の世界観に魅了された者も少なくないだろう。
中でも“器”という曲中、被っていたベレー帽を器に見立てたパフォーマンスは短い演劇の様でもありとても印象深い。短く、謙虚に「ありがとうございました」とだけ言って去っていった彼だが、間違いなく聴衆の記憶に爪あとを残した。
倉林が作り上げた熱を未だ帯びたまま、岸田佳也、yumiko、イトケン、chanson sigeruのバンド・メンバーに加えて裸足でラフな服装のトクマルシューゴが現れる。
言葉少なげに「コンニチハ」とだけ言うと、最新作『PORT ENTROPY』の疾走感溢れる1曲目“Platform”~前作『EXIT』の“green rain”まで、沸点へと達するように早くも駆け上がっていった。
ライヴでのトクマルシューゴは音源で聴く印象とかなり違う。音源だけ聴くと可愛らしい、メルヘンな音楽……といった印象が個人的には強い。しかし、実際に生で観ると、その印象に加え演奏力に裏打ちされた表現力、エンターテイメント性の高さに魅かれる。(目視しただけでも)数十種類の楽器を使った演奏は観ていてそれだけで楽しいし、CDなどの音源では感じることができない音の厚み、同時多発的に鳴らされる音、そしてトクマルシューゴの温かい声……と、どの角度で観ても楽しませてくれる、多面的な魅力を持つバンドという印象を受けた。
バンド・メンバーがはけて、トクマルシューゴのソロになると万華鏡のような照明と共に演奏もガラッと転調していく。新作以前の音源から選曲し、ときに早く、ときにゆっくりと弾き語ると会場はなんとも幻想的な雰囲気に。バンドでの“なにが出てくるかわからないワクワク感”を感じることはできなかったが、一音一語、しっかりと大切に歌い上げる彼の歌には妙な説得感、えも言われぬ強さを感じる。彼の弾く弦の音ひとつひとつが生命を持っているのではないか、と錯覚してしまうほどに筆者自身、音に酔いしれてしまった。
彼らが本編最後に選んだのは彼のリード曲“Parachute”続いて“Rum Hee”。躍動感に溢れ、煌びやかなこの2曲に身を委ねると自然と体が反応してしまう。終盤にして、この2曲……沸き上がった会場中の熱が「はい、コレで終わり」といくわけがない。鳴り止まないアンコールに倉林とトクマルシューゴのセッション(新作『PORT ENTROPY』から“Laminate”)で応え、ライヴは大歓声のうちに終幕となった。
終わってみると、全公演SOLD OUTもなるほど納得……の、濃密な2時間であった。あの場に居た人も居なかった人も、これからさらに躍進していくであろう、彼らの動向に是非注目してほしい。
セットリスト
1.Platform
2.Tracking Elevator
3.Future Umbrella
4.Lahaha
5.River Low
6.Mist
7.Tipewriter
8.Green Rain
9.Such A Color~Mushina~Light Chair【ソロ】
10.Eurydice~Amayadori【ソロ】
11.Sanganichi~Button【ソロ】
12.無印良品CM曲
13.Linne
14.Suisha
15.Orange
16.Vista
17.The Mop
18.カバー曲
19.Video Kill The Radio Star
20.Parachute
21.Rum Hee
アンコール
1.Laminate
2.Straw
3.Marelina
追記
「さ~て、今度はいつライヴがあるんだろう…」そう思い、トクマルシューゴの公式HPを見ているとクインテットでのROCK IN JAPAN FESTIVAL参加決定の文字が。
「あのライヴを野外で観れたら幸せ…だけどお金がなぁ~…」
とか思いつつ、とりあえずひたちなかまでの交通費だけでも調べようと思う。(市川雅史)
※注:ペンギン・カフェ・オーケストラ
ギタリストでもあるサイモン・ジェフズを中心とした楽団。クラシック音楽、ミニマル音楽、民族音楽、現代音楽などの要素を取り入れた音楽を作曲、演奏。メンバーは固定されておらず、楽曲により入れ替えられた。1976年にブライアン・イーノの主催するオブスキュア・レーベルよりアルバム『Music From The Penguin Cafe』でデビュー。以後、高い演奏力とユーモア溢れる楽曲で高い評価を得る。