川辺ヒロシ
なぜ出会ってしまったのだろう? ヤツらとの出会いによって人生狂い咲き!?
そんな“ニクイ”やつらをご紹介。
12月29日のリキッドルームと言えば、もはや恒例となったTOKYO No.1 SOUL SETのライヴ。今回は、そのSOUL SETより、DJ、川辺ヒロシのニクいやつをご紹介。東京のクラブ・カルチャーの黎明期より活動し、現在でもフロア揺らせ続けるDJでもあり、SOUL SETではそのトラック制作の中核を担う存在だ。
さて、そんな川辺ヒロシを作った10枚を、そんな“ニクイ”人生を狂わせたやつらをご紹介。
- 『THE TIMERS』(EMI)1989
- THE TIMERS
川辺これは作品というよりも、ライヴの経験がすごくて。もう上京してて、20歳ぐらいで横浜国大の学園祭のライヴ。ボ・ガンボスとか泉谷しげるとかが出てて。たしかタイマーズはシークレットで、それは2回目くらいのライヴらしいんだけど。まったく清志郎さんがやってるって知らなくて。まだ内緒のときだったから、でも「キヨシロー」って叫んでる人がいて、「え、清志郎? RC出るの?」って感じだったんけど、あの活動家っぽい格好して、モンキーズのやつの、“デイ・ドリーム・ビリーバー”をやってて。で、たしか昭和のギリギリのときで、ちょうど天皇が下血してるとか、そういうニュースをやってるときだったから、そういうネタもやってて。はじめて聴く歌ばっかりなのに、とにかくすごいんだもん、盛り上がって。だれも、それを観に来てるお客さんじゃないのに。ライヴで震えたっていうか。でも、実はアルバムを聴きこんだということは無くて。清志郎さんは死ぬまで尊敬してて、RCもずっと子供の頃から聴いてたし、もう、別格というかさ。
── 清志郎さん体験の一番の沸点がそのライヴというか。
川辺そうそう。そのとき、そうっとテープで音録ってたんだけど、ずっとその音源はずっと聴いてた。
- 『ニュールンベルグでささやいて』(コロンビア)1982
- THE ROOSTERS
川辺ルースターズは、これマキシ・シングルなんだけど、当時12インチで出てて。たぶん、その12インチのシリーズでエンケンとかもたしか出てて。
── どのあたりがルースターズにそこまで?
川辺15歳、中学生でPiLとかと同じ時期かな。そのときクラスで人気があったのはロッカーズ、ルースターズ、シーナ&ザ・ロケッツ、モッズ、ARBって感じだったんだけど、とにかく俺はルースターズにやられてて。これより前のも好きなんだけど、このあたりからニューウェイヴ路線に行って、それが良くて。本当、この時期は洋楽も邦楽もニューウェイヴを聴いてたっていう感じ。クラッシュとかポリスも来日してて。
── もろにって時期ですね。
川辺ポリスが来日したときはNHK FMで1時間半くらいそのライヴを放送してて。それが中2の終わりの春休みだか、冬休みで盲腸で入院してて。どうしても聴きたくて、同じ病室の高校生のお兄ちゃんに放送の録音を頼んで。そのときのSONYのクローム・テープってすごい値段の高い、良いテープを買って渡して。もう小遣いはたいて買って。そのライヴのテープをずっと聴いてたんだよね。そのときのポリスのライヴは、シンプルにやってて、ちょっとダブっぽかったんだよね。全員足下にエフェクターがあって、当時の『ミュージック・マガジン』にはそのエフェクターの坂本龍一の解説が載ってたりして。それは後から知るんだけど。作品はそこまで聴いてないんだけど、ポリスはそのテープばっかり聴いてて。
── リアル・タイムだからこそのエピソードですよね。
川辺で、同じ時期にルースターズを聴いてたという感じ。
── さっき出たような同じ時代の日本のバンドのなかでルースターズをいちばん聴いてた理由は?
川辺なんだろうなぁ、ルースターズが一番クールだったよね。儚いというか、危ういというか……あとはメロディ・ラインとかも好きで。あとは同じ時期出た「C.M.C」って12インチと、この後に『DIS.』と『GOOD DREAMS』ってアルバムが出るんだけど、この前後の作品はずっと聴いてた。
- 『It’ll End In Tears』(4AD)1984
- This Mortal Coil
川辺ディス・モータル・コイル、デュルッティ・コラム、ニュー・オーダーは高校生の時かな。この辺はリアル・タイムで新譜として聴いて。街で買ってきて実家で聴いて。ディス・モータル・コイルとかも衝撃的で。17歳、高2のとき。中学生のときにニューウェイヴの洗礼受けちゃったから、高校のときもニューウェイヴしか聴いてなくて。普通にヒットしてたのってなんだろう……デュラン・デュランとかマイケル・ジャクソンとかかな。そういうのも嫌いじゃなかったけど、この3つのが衝撃うけたというか。でも極端に触れてるよね。そうとうこじらせてるよね。高校の時、こういう音楽の話なんて全然合わなかったもん。
── 〈4AD〉と〈ファクトリー〉ばっかり追いかけてるっていう。
川辺そうそう。鹿児島の輸入盤屋があって、そこに行くんだけど、そこで友だちができるわけでもなく……。
- 『Another Setting』(FACTORY)1983
- THE DURUTTI COLUMN
川辺これもリアル・タイムで、買って、家に帰ってきて……ジャケットが穴空いてたり、特殊ジャケットでアートっぽくなってて。それもお洒落だなぁって思ってて。
川辺例えば、このPiLもそうだけど、後から聴いて『Metal Box』のがかっこいいと思ったりというのはあって、ここにあげてる他のアーティストもそうだけど、当時自分が14歳から音楽にのめり込んで、DJをはじめる20歳ぐらいの間にリアル・タイムで衝撃を受けたものっていう感じのもので今回は選んでて。だから、ここに出てるアーティストが一番のオススメ盤というわけでもなくて、あくまでも自分の個人で衝撃を受けた盤っていうところで。
── で、まずはPiL。
川辺なんでかわからないけどとにかくはじめに衝撃を受けたというとコレかな。まさに「体中に電気が走った」っていう。リアル・タイムでリリースされたときに地元の輸入盤店で買ったんだけど。
── すでに音楽は聴いてた感じですか?
川辺これよりも前にRC(サクセション)とか、YMO、あとは洋楽もポリスとか。(セックス)ピストルズとかは、いわゆるロックの名盤、教科書という感じで聴いてて。ピストルズは聴いてみたら、わりと普通にロックで「それほど、想像してたよりハードじゃないな」っていう感じだったり。それだったらポリスの方がかっこいいなとか思ってて。でも、『The Flowers Of Romance』をはじめて聴いたときは、うんこ漏らすかと思ったよ(笑)。あとから、この音は、ベースもギターも脱退して、しょうがなくこの編成で作ったとか、そういう知識を知るんだけど。でもアルバム1枚を、あの音で押し通すっていうかさ。ジャケットにはメンバーなのかなんなのかわからない女が写ってるしさ。レコード買ってきて中学生が聴いて本当にびっくりして。いまだにそのときの映像っていうか、目の前にあるアンプとか、そういう光景も憶えてる。団地の1階で爆音でかけてて横の公園に響き渡ってて、脳天に啓示がきたっていうかさ(笑)。でも同時に(大滝詠一の)『A LONG VACATION』も聴いてて、それはそれですごく良いと思って聴いたんだけど。
── いまに続く影響みたいなのってありますかね?
川辺姿勢というか、皮肉っぽいところというか、なんというかこじらしてる感じが好きで……そこがジョー・ストラマーにそこまで熱くなれなかったところかな。これが中2ぐらい。RCとかもすごい好きで、それは後にザ・タイマーズにつながってくんだけど。