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好きなことだけをやってるし、やっぱりこういうレーベルはどんどん出さないとレーベルじゃない感じがするので
ーー5周年を迎えた〈Grand Gallery〉プロデューサー、井出靖に訊く
リキッドルームにて7月23日行われる〈Grand Gallery〉5周年記念パーティの、例えばDJだけでもその出演陣を見て欲しい。ロック/パンク/ニューウェイヴ、ヒップホップ、ハウス、クラブ・ジャズ、レア・グルーヴ、スカ/レゲエ、渋谷系などなど、それこそクラブ・カルチャーの黎明期から活動するオリジネイターから若手まで、そうそうたるアーティストが参加している。さらに出演バンドのアーティスト・ラインナップの豪華さは語るまでもないだろう。この出演リストが象徴するのはある意味で、レーベルを主宰するプロデューサー、井出靖が関わってきた音楽シーンの厚みであり、そのキャリアの、ある意味で縮図と言えるだろう。
80年代から音楽シーンに関わってきた彼が2005年に設立したレーベル〈Grand Gallery〉は、音楽的なプロデュースはもちろん、日々の書類の作成からアーティストとの契約までその業務のほとんどを井出自身で手がけているレーベルだ。5年間、〈Grand Gallery〉の代名詞となったコンセプチャルなコンピレーション・シリーズを中心に100タイトル以上もの作品をリリースし続けている。さらにそれぞれのレーベルと連動したショップを渋谷宇田川町にも運営している。モチヴェーション的にも、経済的にも走らせ続けるのは並大抵のことではない。しかもメジャー・レーベルとは比べ物にならないくらい、驚くほど少人数で運営している。この変わらぬエネルギッシュな動きを支えるのは、インタヴューを読んでもらえればわかるが音楽への強い愛情である。
これまでの〈Grand Gallery〉、そして5周年のパーティを中心に井出靖に話を訊いた。
── まずはこのたび5周年を迎える〈Grand Gallery〉設立の経緯をお教えいただきたいんですが。
井出もともとは……2000年ぐらいかな、レーベルをやろうとずっと思っていて。それまでやっていたようなプロデュースの仕事もいつまで来るかわからないし、レコード会社からオファーがあってなにかを作るというようなシステムじゃなくて、自分たちでできないかなと。ずっと準備はしていたんですが、流通のこと、権利関係のこと、あまりにも知らないので少しずつ憶えていって2005年にはじめたっていう感じなんですけど。
── メジャー・レーベル主体の音楽産業のシステムに対する危機感みたいなものがあったとかですか?
井出まだそのときはメジャー・レーベルからの仕事も結構あったとは思うんですけど、だからといってずっとこれが続くとは思えなかったし、出したいものを気軽に出せる環境でもなかったというか。あとは少ない人数のスタッフで出せれば、そんなに大ヒットじゃなくても大丈夫なのかなと。最初はそんな感覚でしたね。
── この5年間でご苦労された点というのはどこでしょうか?
井出やっぱり最初はどうやってジャケットを作ったら良いのかとか、CDのプレスはどこに頼めば良いのかとか、そういうところからですよね。例えば雑誌の『サンレコ』を見て、沢山そういう業者が載ってても、どれに頼めば良いのかわからないし。あとはライセンスとかの権利関係ですね。うちはコンピレーションが最初多かったんですけど、コンピレーションでライセンスしていくと、どういう風にすると成り立つのかなとか。
── レーベルとしてのヴィジョンみたいなものは当初からあったんですか?
井出いわゆるジャンルじゃなくて、生活に密着するような形でコンピレーションなんかをやりたいなと思ってて。よく海外なんかには“バー”とか、いろいろなテーマのコンピがあるじゃないですか? そういうものを、もっと日本でも気軽に出してくれても良いのになぁと思ってて。例えばメジャーで1枚のコンピを作るとすると、半年間とか1年かかって何度も会議をやって話し合いをして出すじゃないですか? だったら自分たちで出して、会議が無くても好きなものを出せるものが良いと思って。
── インスピレーションからCDというプロダクトにするまでの、ある種のスピード感を優先させたいと。
井出それはいまでも変わらなくそうなんですよ。いまでも毎月3枚くらい出してます。
── その部分で目標を達成できていると思いますか?
井出そういうこともなくて。でも、いま4レーベルやってて100枚以上のリリースがあるんですよ。そのなかで、いかに新鮮に音楽に向き合えるのかっていうのはテーマにしてやってきてるので。やっぱりレーベルを続けるためだけに出すってのはつまらないから。だったらやらない方が良いかもしれないとまで思ってるので。あとは〈Grand Gallery〉のコンピレーションには、僕の名前が表に一切出ないというのがひとつコンセプトにしていて。
── あ、たしかに。
井出選曲の一番後ろのクレジットのところに書いてあるだけなんですよ。レーベルやってて、おもしろいのは例えば今日とか通販でひとりで20枚くらい買う人がいるんですよ。1回ハマってくれると、集めてくれる人がいるみたいで。
── ジャケットって、写真家さんを誰か限定されているんですか?
井出違うんですよ。これは雑誌の『Relax』のデザインとかやってたアート・ディレクターのNANAの小野(英作)くんというのが全部、掘ってくるんですよ。よくある貸しポジの素材写真のなかから。しかもデザインの打ち合わせってなくて、彼は音楽もわかってるので、ある日上がってくるんですよ。もちろんアーティスト・アルバムのときは、写真をチェックしますけど。この前もトシちゃん(中西俊夫)の写真を常盤(響)くんに撮ってもらったんですけど、それも上がってきたのがOKという感じで。
── アートワークはシリーズで一貫してますよね。漫画のコミックスとか小説の全集みたいにずらっと並べたくなる一貫性のあるデザインというか。
井出集めたくなりますよね。前に50枚BOXって箱を作って、過去の作品をいれてリリースしたら買ってくれた人がいて。「奥さんに怒られるからカードじゃなくて銀行振込にして良いですか?」って言われて(笑)。
── 写真とコンピのテーマがあって、という一貫したパッケージングでコレクションしたくなるんでしょうね。
井出そういう買い方してくれるとは実はそこまで戦略的に考えてなかったんで、それがすごく助かってるんですよ(笑)。レーベルのはじめに1枚目はラヴァーズ・ロック・レゲエの『Lovers Rock Nite』、2枚目はラテン・ジャズとラテン・ハウスの『Casa Latina』、3枚目にサーフ・ロックの『Surf Time』を出したんですけど、そこまで出したらお店の人に「どこのコーナーに置いて良いのかわからない」といわれて。無茶苦茶だからって(苦笑)。それでもこのスタイルで出し続けたら、そのうち、そういう風に言われなくなって。
── こういういったジャンルではなくて、コンセプチャルなテーマ縛りのコンピって、〈Grand Gallery〉以降で増えたような気もするんですけど。
井出その部分はレコード屋さんに行って、そういうものを見ないようにしましたね。朝7時くらいからお店に出るまでの時間に企画を考えたりレーベルの仕事をやるんですけど、外部の情報をあまり入れないようにして自分だけで作るようにしてますね。だからレコード屋さんに行くにも、音源買いに行くときは、本当に買うだけにして。
── 90年代のはじめから、音楽プロデュースと並行して、お店はやられていて、現在もそれぞれコンセプトの違う3店舗を展開されているわけですが、こういう風にレーベルと実店舗との並行というのはどこが起点になってると思いますか?
井出2Fの〈monaco〉は、旅とかサーフ・ショップというか、同時に同じ〈monaco〉というレーベルがあって、サーフ・ロック系の音とか、ジャムっぽいものとか、開放感のあるものを出すレーベルにしてて。3Fの〈TARTOWN〉は少し前にサイレント・ポエツの下田くんのコンピを出したり、TICAも出したり、ヒップホップのサウンド・プロヴァイダーズを出したりとか、チルアウト系のベントも出すんですけど。そういったチルアウトなダウンテンポを出して行きつつ、お店には写真集とかヴィンテージなTシャツとかモノがあったり、アートフォームが一緒になっているんです。それで〈Grand Gallery〉はラウンジとかハウスとか、そういうものに特化しているというか。ショップとレーベルが連動して成り立ってるというところにしてるんですけどね。コンセプトとしてはそういう感じです。
── コンピレーション以外の楽曲、例えば録り下ろしのアーティスト・アルバムもすべて井出さんの方である程度のディレクションしてるんですか?
井出実はコンピも、コンピに見えて自社の曲というのが多いんです。そこからスタートして、アーティスト・アルバムも同時に作るような形に移行していったんですよ。まずは作品を出したいアーティストがいて、その人に作品を出しましょうという話をする。あと基本的に好きなアーティストに頼んでいるので、作る内容に関しては打ち合わせとかはほとんどないんですよ。ただ、企画みたいな感じ……例えば中西俊夫さんがいて、声がすごい好きだから「弾き語りのアルバム作りませんか?」と言って弾き語りのカヴァーでやってもらって、そこでやる楽曲に関しては自分で選んでもらうとか、そういうのはひとつひとつそれぞれの形でやってます。
── 〈Grand Gallery〉の今後のニュー・リリースは?
井出7月以降だと、井上薫くんのミックスCDも出すし、あとミックスCDはDJスピナも出す予定で、こちらは終わってるんだけど、MUROくんのと一緒に出そうと思ってて。スピナとMUROくんにうちのレーベルの音源を掘って、ディギン対決して貰おうと思ってて。そうかと思えば、“GRAND GALLERY FOR LIVING”っていう生活っぽいシリーズも作ったんで、金原千恵子監修でクラシックのカヴァー集を作ってます。あとはベントも出したり、海外アーティストのライセンスも他にも話してたりしてます。あとさっき出た小野くんと言えば〈TARTOWN〉の方で、今度、日本の濃いアーティストを集めたイメージ・コンピレーションを出すんですけど。1曲目はケンジ・スズキ(ケンジ・ジャマー)なんですけど、ゆらゆら帝国、コーネリアス、フィッシュマンズ、ヤン(冨田)さん、あと僕がやったDJクラッシュとジェームス・チャンスのやつとか、ブランキー(ジェット・シティ)、ソイル、エゴ・ラッピンとかが入るコンピなんですよ。それで写真が高橋恭司で。
── おお。
井出そんなコンピないじゃないですか? 僕は他にないものを作りたくて。つねに動いてますよ。
── 「つねに」と言っても、月に3枚って言ったら必然とそうなってきますよね。
井出そうなんですよ! でも月に3枚って多いような気がしますけど、レコード会社だったら月に30枚とか出すんですから。なかなかハードなんですけど、出したいというものも、出さなくちゃというのも混ざってて。