Hard-Fi
初期のクラッシュを思わせるような、ノンストップ、汗ダラダラの熱いライヴ、しかし、その音は後期のクラッシュが現代に甦ったかのようだったHard- Fi。クールなヴォーカルのリチャード・アーチャー、オリジナル・パンクスのような鋭い面構えのカイ・ステファンズに話を聞いた。
── あなたたちのサウンドはとてもブリテイッシュですが、アメリカンなメロディも聞こえてくるんですけど、それはなぜでしょう?
リ チャード・アーチャー(以下R) 「ぼくたちはヒップホップ、ブルース、ソウル・ミュージック、などアメリカの音楽が好きだから君がそう感じるのは自然なこ とかもしれない。それにストーンズやビートルズといったクラシカルなブリティッシュ・バンドもアメリカのR&Bやロックンロールに影響されていたわけだか ら、英国のバンドにはすべてその要素があるんじゃないか」
── すいません、言い方が悪かったです。今のイギリスのバンドは無理してでもイギリスぽさを装うとしているような気がしてるのに、あなたたちは違うなと。
R 「そうだね、今のバンドの多くは喉にナイフを突きつけらながら「ブリテイッシュぽくやれと」と言われているかのようだね(笑)。でもぼくにとってベストな ブリテイッシュ・バンドとはストーンズ、クラッシュ、スペシャルズ、ニュー・オーダー、マンデーズ、ローゼズ、ストリーツ、マシッヴ・アタックのように色 んな音楽を寄せ集めて自分たちのものにしてきたようなバンドの方が、ダンディに装って、イギリスぽいアクセントで歌うバンドよりブリテイッシュだと思って いるから。」
── 「ヘルプ・ミー・プリーズ」「ムーブ・オン・ナウ」「ベター・トゥ・ベター」を聞くとコールドプレイに成りうるくらいのメロディを持った曲ですよね。
R 「それはまた別の次元の話だね。ぼくたちは色んなものに影響されているから、そういうものも生まれてしまうかもしれないけど、俺たちはコールドプレイみた いにナチュナルなサウンドには行かないからね。ぼくたちはサウンド・プロダクションにも興味をもっているから、ぼくらのサウンドはもっとカオテイックにな る」
── Hard-Fiの前のバンド、コンテンポというバンドはどういうバンドだったのですか?
R 「ブラス・セクションがいて、オールド・ソウル・ミュージックをパンク・アテチュードでプレイしてたんだ」
── コンテンポが成功しなかったのはHard-Fiに成る為の過程バンドだったからか、それとも他に理由があったあのですか?
R 「よくある音楽業界の話さ、コンテンポはミック・ジョーンズとレコーディングしてたんだけど」
── 本当!?
R 「そうだよ、リヴァティーンズよりも前にね、でもぼくたちの契約していたレーベルが大きなレコード会社に買収されて、ぼくたちのA&Rが首に成って、コンテンポのレコーディングも途中で終わってしまったのさ」
── 『スターズ・オブ・CCTV』のプロデュースをミック・ジョーンズに頼べばよかったのに。
R 「払えなかったんだ。どんなプロデューサーに払うお金もなかった。自分たちで、自分たちの友達とやるしかなかった。でもそれが逆に独特な音になっていてよかっ たと思っている。今はワーナー・ブラザースと契約して、ワーナーがどんなプロデューサーと仕事をしてもいいよと言ってくるけど“俺たちのサウンドは他にな いじゃないか、これでやっていく”と答えている。ミック・ジョーンズも俺たちのアルバムを気に入ってくれているよ。今もよくライブに見に来てくれてるよ、 元ブラーのデーモンもよく見に来てくれるな」
── 前回のブリット・ポップ・ブームはカムデン・タウンがシーンの中心でした、そして今回のシーンの中心はニュー・クロスなどのサウス・イースト・ロンドンですが、あなたたちの町ステインズはそれほど離れていないと思うのですが、そこに参加しようと思わなかったのですか?
カイ・ステファンズ(以下K)「ぼくたちの生まれ育ったステインズは地理的にはロンドンからそんなに離れてないようでも、心理的にはとても離れている、だからロンドンのシーンには入りづらいんだ」
── ダンス・ミュージックが死んでしまって……。
K「違う、違う、ダンス・ミュージックは死んでいない。アンダーグラウンドになっただけさ。今はシーンに影響を与えていないかもしれないけど、絶対また重要な存在になるよ」
── すいません、ぼくが言いたかったのはもっとダンス・ミュージックがシーンの中心な時だったら、Hard-Fiはもっとダンス・ミュージックの要素が強かったのかな?
K「Hard-Fiには色んな要素が入っているということでもポップ・バンドと言えるんじゃないかな。ライブにはパンク・バンドのアテチュードがあるし」
R「イギリスに住んでいたらダンス・ミュージックの影響を受けないというのは不可能だ。特にこの15年 はね。そしてそんなイギリスのダンス・ミュージックの歴史も15年も経ってクズなものしか生まなくなってきたんだ。だから俺たちはパンク・アテチュードで ダンス・ミュージックをやるんだ。シーンがどうとか流行がとかそんなことはどうでもいいんだ。自分たちの好きな音楽を好きなように演奏するんだ」
── 今ポップ・ミュージックという言葉が出てきました。よくロック・ミュージシャンはポップという言葉に嫌悪感を示しますが、さすがトップ・オブ・ザ・ポップスが永遠にあるイギリスらしい人の発言だと思ったんです。
K「ポップとはポピュラーの略だろ、そういう意味では俺たちはポップ・バンドだ、そうでいたいと願っている」
R「クラッシュの「ロック・ザ・カスバ」は素晴らしいポップ・レコードだろ?」
── そうです。
R「偉大な曲だ。そして人々の心に届いた。ダンスをしたくなったり、メッセージ に耳を傾けたくなったり、サビの部分で一緒に叫びたくなったり、俺たちが 作りたいのはそういうレコードなんだ。いい曲を書くのは簡単だ、簡単じゃないけど(笑)。でも「ロック・ザ・カスバ」のような曲を書くのはもっと難しい。 でもぼくたちがやっているのはそういうことなんだ」