自己を内面から開放する、感情の起爆剤
日本における激情ハードコア・ポストハードコア・バンドとして最重要バンドの1つであり、シーンにおいて孤高の存在感を放ち続けるenvyの約5年ぶり、通算6枚目のフル・アルバム。
全く最高だ。結成から20年以上に渡るバンド活動の中で、最新作において、より素晴らしい作品をリリースし続けるということ。一般的なバンド活動の中で何が最も難しいか? それはきっと、“活動を続けていくこと”、それ自体ではないだろうか。パンク・ハードコアの精神=D.I.Y.を体現する彼らは、音楽性だけではなく、そのスタイルにリスペクトを感じているフォロワーも多い。例えば彼らはプロモーションや広告がほとんどと言って良い程ない。リリースも、自身の主催するレーベルから。そこには困難も多いことと思う。高いモチベーションを保ちつつ、自分達のペースでやりたいことをやり続けるということは、言葉で言う程に容易いものでは決して無いはずである。
今作も、継続は力という、圧倒的な説得力に満ちている。
結論から言うと今回のアルバムは、これまでで築き上げた独自の世界観を引き継ぎながらも、より円熟とスケール・アップを感じる快作である。張りつめた緊張感と歪んだ轟音、全身全霊で振り絞るような咆哮、そして激情と混沌の真っ只中で生み出される静寂・・・そんな“envy節”に心が揺さぶられ、また前作よりも際立って力強く前のめりなメロディー群に思わず涙腺が緩む人も多いだろう。全8曲とは到底思えない、厚みのある内容である。
アルバム序盤はバンド初期をも彷彿とさせるエッジの効きまくった2曲でどこまでもエモーショナルに畳み掛け、聴き手としては思わず拳を握ってしまう。中盤は美しく荘厳に、深淵に描かれるサウンド・スケープが印象的。キーボードアレンジとしてSUNNY氏を迎えたという今作では、散りばめられたストリングスがより煌めきを放ち、光を増幅している。5曲目を起点とした終盤は、徐々に激しさと荒々しさを取り戻しつつもクライマックスへと向かう圧巻の眩ゆさで走り抜けていく。全体を通して聴くことによって語られるストーリー性を孕んだ、ドラマティックな1枚だ。
こうやって音楽を言葉に置き換えるにあたって、envyは個人的にとても難しい。何故なら音像と言葉と叫びが渾然一体となったそのサウンドは、言語を超えた、もっと原始的な、衝動的な感覚をも表現しているように感じるからである。散文詩的な歌詞に象徴されるように、それは皆で肩を組んで歌い、楽しく踊るためのものではない。自己を内面から開放するような、感情の起爆剤のような音楽であると思う。
今作もアメリカとヨーロッパでのリリース、6月にはヨーロッパ最大のメタルフェス”HELLFEST”にも出演が決まっており、その後もワールド・ツアーが控えている。その前にはやはり、ジャパン・ツアーだ。彼らの音源はライヴで更に化けるので、是非会場で体感したいし、より多くの人に届いて欲しいと切に願う。もし会場で目撃すれば、迸る音の熱量に、気付けば共振し、巻き込まれているはずである。
公演情報
Atheist’s cornea RELEASE TOUR 2015 TOKYO @ LIQUIDROOM
2015.05.17(sun)
※ワンマン公演
OPEN : 18:00 / START : 19:00
前売 : ¥3,000 (税込·D別)
問い合わせ : SMASH 03-3444-6751
https://www.liquidroom.net/schedule/20150517/24061/