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leave them all behind

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轟音バンドを日本に紹介し続けるレーベル Daymare Recordings主催によるイベント”leave them all behind”が恵比寿リキッドルームで行われた。出演バンドは海外よりISIS、SUNN O)))、GROWING。そしてそれを迎え撃つ日本勢はBoris、envy。海外でも中々見ることの出来ない奇跡の共演に、チケットはソールドアウト。気持ちの良い春の日の夕暮時にも関わらず、リキッドルームは別次元の世界に引きずり込まれたような重力に支配されていた。

最初に登場したのはニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動する3人組、GROWING。メンバーは横一列に並び、両脇はギタリストの二人がエフェクターを多用しての演奏、そして中央には女性メンバーが鍵盤を操りつつ、時折咆哮のような叫びを披露する。総括してしまえば、電子音と歪んだギター、そしてノイズで生み出される人力ミニマル・ミュージック。しかしそれはテクノ的であったり、オルタナティブの匂いがしたり、インダストリアルの要素を兼ね備えていたりと多岐に渡るジャンルが内包されており、実験的でありながらも有機的でフロア寄りの音楽に体が揺れる。初来日、そしてこの日のトップバッターであったにも関わらずしっかりと自分たちのステージを魅せつけてくれた。

次に登場となったのはenvy。この日のライブはVo.Tetsuの鍵盤と語りから幕を開けた。そしてそのまま『歪んだ先に』へ突入。静と動、光と闇、希望と絶望などのコントラストが映える壮大なスケール感が広がってゆく。『覚醒する瞳』、『左手』、『光源の孤立』、『美しき生誕と孤独』、など新旧曲織り交ぜてのセットリストに会場はその熱量を最大にまで押し上げていた。ラストに披露された『暖かい部屋』では轟音と光に包まれたステージで笑顔を見せたメンバーの表情がなんとも印象に残っている。
彼等のライブは何度観てもその音楽的な、あるいはその精神的な凄まじさに言葉を失う。常に全身全霊を振り絞って鳴らされる静かに光の射す叙情的なメロディーと言葉、そしてとんでもない音圧を誇る轟音が渦を巻いて心の奥深くに迫ってくる。自らの命を削っているのではないかと思われるような叫びと、身体が軋むような轟音を掻き鳴らす様はどこまでも激しくも美しく、正に圧巻であった。

続いても国内勢としてBorisが登場。しかしその活動はもはや国内よりも海外での方が遥かに活発であり、最近ではNINE INCH NAILSの全米ツアーに同行したのも話題となった。あまり日本では観ることの出来ないBorisのライブということで、会場の空気も一段と緊張感が増す。
この日はメンバーの3人にギタリストの栗原ミチオを加えた4人体制でのライブとなった。幕が開き、メンバーが登場すると共に炊かれたスモークが不気味さを醸し出す。『Missing Pieces』『虹が始まるとき』『      』の全3曲を演奏したのだが、ドゥームやスラッジ、へヴィーロック、ストーナーと呼ばれるジャンルの中でも突出した演奏をすると言われる彼等のライブは半端の無い轟音。しかしそれが非常に心地良く、轟音とノイズの音の粒子の中を漂うように身を任せていく。 Ba.,Gt.&Vo. Takeshiと紅一点のGt.&Vo.Wataそれぞれの、深めのリバーブが掛かった哀愁や情念を感じるボーカルも映える。終盤では音像が更に重みとサイケデリックさを増し、しかも客電を全て落としての演奏!聴覚にどうしようもなく訴えかけてくる闇の中で鳴り響く歪んだギターの音に、この世の果てを思った。

4番手に登場したのはここ日本でもカルト的人気を誇る暗黒神、SUNN O)))。ステージにはまた一段とスモークの量が増し、もはや霧のよう。そこに黒いマントのような衣装を纏ったメンバーの2人が現れる。そして彼等がギターを鳴らし始めた瞬間、異変が起きた。
びりびりと空気を伝って音が身体に刺さってくるような感覚に襲われたのである。そびえ立った15個は余裕で越える大量のアンプの壁から発せられる驚異的な轟音は想像以上で、容赦無く会場を揺らし始めた。繰り返される歪んだ重低音によって、まるで地震が起きているかのようである。眼球まで揺れるその音像は、実際に体感してみないと分からないだろう。時間が引き伸ばされたり縮められたりしているような、そして意識が知らぬ間に現実から遠のき彼等の音像の中へと沈み込んでしまうような、そんな不安定な感覚に襲われつつも何故か心地良い。後半はBorisのDs.Atsuoを加えた3人編成での特別なライブセット。その儀式と呼ぶに相応しいライブパフォーマンスは不穏さ、不気味さを増し、自分がいま生きているのか死んでいるのか分からなくなるくらいの異空間を創り出していた。ライブが終わると、『遂に目撃してしまった』という思いでいっぱいになった。

ラストを飾ったのはISIS。その鉄壁のバンドアンサンブルから成る孤高の世界感は、「さすが!」の一言である。今回のライブは最新作を引っさげてのワールドツアーの初日にあたるものだったらしいが、初日とは思えない程の新曲の馴染み具合、完成度の高いライブにはやはり度肝を抜かれてしまう。
 1 曲目の『Hall Of The Dead』から既に会場の空気は彼等の一挙一動に掌握されてしまった。鉄壁のリズム隊に、時に繊細で時に暴力的な緩急の付いたギター、そこに咆哮のような叫びが加わり、静と動の中でたゆたいながら曲が展開してゆく。彼等の音楽の前ではどうやったって、頭や身体を揺らさるざるを得ない。そうして何度も何度も魂が震える瞬間が押し寄せる。曲間のMCは一言も挟むことなく集中力を高めたところで次の曲へと向かう様子は、このバンドが本当にシリアスでストイックなことを示していた。加えて会場を包む緊張感もそれに合わせるかのように増幅されていく。『Dulcinea』、『20 minutes / 40 years』、『Threshold Of Transformation』、『Ghost Key』、『In Fiction』と一挙に、しかし着実な演奏で本編終了。
鳴り止まないアンコールに応えては、なんと初期の代表曲『Celestial』を披露!更にモッシュが起こるまでに会場を沸かした後にステージを去った。確固たる彼等のステージは、集まった人々の心臓の奥の方まで軌跡を残したことであろう。

 時計を見ると既に開始からなんと6時間が経過していた。しかしながらその時間は非常に濃密であり、色濃くそれぞれの記憶に刻まれたことであろうと思う。“leave them all behind”という『全てを置き去り前へ進む』という意味の込められた今回のイベント、正に五者五様の音楽を打ち鳴らし、大成功に幕を閉じたのであった。

photo by
ISIS: Yuki Kuroyanagi
SUNN O))), Boris, GROWING: Miki Matsushima
envy: Yoshiharu Ota

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