FEATURE

INTERVIEW

前田真治――アート・エキシヴィジョン『Middlesex identity』@Time Out Café & Diner/Gallery

前田真治――アート・エキシヴィジョン『Middlesex identity』@Time Out Café & Diner/Gallery

twitter facebook

最終的の僕はタイムマシンを作りたいので、それに向かっての道筋を辿っている

 今年のはじめ、解体前のフランス大使館旧庁舎をそのものを展示場として展開された、アート・エキシヴィジョン“DANDANS at No Mans Land”。20代~30代の若き才能を集めたアーティスト集団“団・DANS”による主宰で行われ、大きな話題を集めた。フランス大使館旧庁舎の展示を含めて、“団・DANS”のさまざまなエキシヴィジョンに出展しているアーティスト、前田真治が9月25日~10月3日の間と11月後半に2度の展示を、LIQUIDROOM2F、Time Out Cafe& Dinner/Galleryで行う。まずは第1回となる9月25日~10月3日の、そのテーマとは、なんと“没”。そう、世に出ることのない没作品をあえて出すのだという……そして次なる11月後半の展示には、自身で金属の固まりから、いちから制作したという実物大のカウンタックが登場する(写真は制作中のもの、前田自身によればこちらが“本気”の展示)。Time Out Cafe& Dinner/Galleryに、あのスーパーカーの代名詞として名高いスポーツカーの、実物大の作品が……それだけでも強烈なインパクトだ。
 神戸の山奥にて制作をしているという、前田真治の、その正体を探るべくメールにて質問を試みた。







── アートの分野に本格的に志そうと思うほど、影響や衝撃を受けたアーティストは誰でしょうか?

前田僕が影響を受けた人間は、多分ふたりですね。〈シミー・ディスク〉(注1)のクレーマーとキューブリックです。クレーマーは、中三くらいのときに知って……多分ショッカビリーからですかね。衝撃を受けました。理由というよりは単純におもろかったんです。ほんで、シミーのレコード根こそぎ買いました。そんなかでも、ドン・フレミングとか好きでしたね。ジャド・フェアとかよりも、やっぱ。キューブリックはみんな好きでしょ? 僕も例にもれずはまりました。これも理由そっちのけでかっこいいと思ったんです。よく考えれば、ふたりともファインアートって分野ではないけど、表現の根幹みたいなものを学んだ気がします。





── あとはもっと身近なトラウマというか、現在の活動に通じるもので、幼少期の頃に衝撃を受けた体験とかってありますか?

前田祖父が、学校のお迎えに来たときのことですかね。酒好きの祖父がその日も昼間から泥酔してたんですよ。そんで、僕をお迎えに来るときに、僕が(学校の)門のところで待っていると、遠くのほうから爆音が響いて来るわけです。その原因が、僕の祖父で。いま考えれば、ローギアでずっと車を走らせてたんでしょうけど、その激しい爆音轟かせながらセンターライン上を20キロくらいのスピードで走ってるんです。後ろに車の大行列引き連れて。ほんで、門にぶつけて停車して「迎え来たぞ」って。僕、それ見て、カッコエエと思ってしまったんですね。この感覚はいまにも通じています。





── ご自分の表現に一貫したメッセージやテーマはありますか?

前田あります。作品の構成はいつも行き当たりばったりですが、最終的の僕はタイムマシンを作りたいので、それに向かっての道筋を辿っているというのが最大のテーマです。ぜんぜん関係ない作品群かと思われるかも知れませんが、数学的に結果を求めるのではなく、あくまでアーティストとして目的を目指しているので、流れは単純ではありません。タイムマシンの原理を明快に理解するのにピアノの機械部分の仕組みを知ることが必要だったり、無職の大人の日常が興味深かったりします。うまく説明できませんが、とにかく僕の作品はいつもそういう繋がりに支配されています。





── いまもっとも興味のあるものはなんでしょうか?

前田いま、現在まさに興味あるものはカウンタックです。11月にまたそちらのギャラリーで展示させてもらう作品がカウンタックをモチーフにしたものですので、カウンタックの勉強はかなりしました。欠陥だらけで走り切るカッコよさがたまりません。





── 逆にいまもっとも怒りを覚えるものはなんでしょうか?

前田やわらかいとかホワホワの食感とかが美味いとイコールになっていることです。コンビニとか行って、やたらホワホワだったりします。僕、ご飯とかも固めが好きだし、食いもんに歯ごたえを求めたいタイプなんです、だからホワホワが多いのはむかつきますし、それを助長するOLの発言もむかつきます。





── 作品を作るのに、インスピレーションを受けるのはどんなことが多いですか?

前田作品を作る段階でのインスピレーションというよりは、僕の場合一生かけても作れないぶんの作品量はすでに頭のなかにあって、それは大学やめた直後にビザの申請をホームオフィスにしている期間にあまりに暇だったので、考えまくってきれいに脳裏に羅列させてしまったんですね。つまり、タイムマシンへの道程です。多くの作品はその引き出しから、今日着る洋服を選ぶみたいに、鼻歌まじりに選んでます。もちろん、具現化するのに多少のオカズは加えますが、それらは大体そのときある人間だったり環境だったりが自然とテーマを与えてくれます。





── 差し支えなければ教えて下さい。今回の展示のタイトルにもなっているMiddlesex university B.A Fine Artはなぜドロップ・アウトされたのでしょうか?

前田ある日、チューターに部屋に呼ばれたんです。そんで「シンジはいい友達を作りなさい」って言われて、チューターにひきつられて学校にいる人間ひとりひとりに「彼、シンジっていうのよろしく」って紹介されまくったんです。それがたまらなく切なかったんです、当時の僕には。





── そのドロップアウトも含めて、イギリスでの体験というのはご自身の作品に影響を与えていると思いますか?

前田思います。僕の場合大学内よりもむしろ外での活動が多かったので。いわゆる不良みたいな人間とばかり接してましたからね。特に、フランス人のANGIL+hidden tracks のMickaelとはギターを弾きながら散文詩を読み合ったりしてましたね。あと、イギリスの女はブサイクだから網タイツを全身にかぶせに行こうとか、そんなんばっかり。





── 今回の“没”展に“Middlesex identity”と名付けたのはなぜなんでしょうか?

前田これは、没というテーマに忠実にあてがったものです。僕が没になった場所だから。





── “没”というのは、どの点で没となった作品なのでしょうか?

前田それはいろいろです。多くは第三者に提出して「NO」と言われたものですが、自分から引っ込めたものもありますし、ほんといろいろ。





── 今回展示されるキャプションも含めて、ある意味で作品制作の過程も展示するわけですが、その点はどうですか?

前田dandansでの僕の作品は完成の展示みたいなニュアンスが多いですが、もともと僕は過程に味を持たせる人間なんです。シャネルの時にそれで失敗してしまったので、dandansでは控えるようにしたんですけど、前の質問でも答えたように、僕の作品は引き出しのなかのデッドストックです、だから制作の段階の動きこそが生きている作品ということになります。





── なぜ11月に行われる展示と今回の“没”展を2度に分けて行うことにしたのでしょうか?

前田簡単なことです。没展は僕の全身全霊を背けている。そして11月の展示には
全身全霊を傾けている。それらが混ざり合うと中和してしまって展示がわやくそになるからです。





── 次回11月に行われる“本気”の展示とはどんなものになるのでしょうか? テーマなどがあればお教えください。

前田カウンタックという標本を元に、一番興奮する状態を体験できる設備を作ろうと考えています。テーマは死にに行く道具とでも言いましょうかカウンタックという誰もが憧れる形をしたものに乗って散り行くという死に方を提案してみました。それに備わるスタイル、設備を搭載させ死という極限の恐怖を感じながらあえて乗ってみたいという欲望を駆り立てるものを作ろうと考えています。

編集注1:1987年にNYにてマーク・クレイマーが立ち上げたインディ・レーベル。80年代後半~90年代前半にNYのアンダーグラウンド・ロック・シーンで個性的なリリースで注目を集めた。ちなみにボアダムズやルインズなど日本のバンドもUSリリースしている。

RECENT INTERVIEW

INTERVIEW TOP

RECENT INTERVIEW

INTERVIEW TOP