ミドリカワ書房
なぜ出会ってしまったのだろう? ヤツらとの出会いによって人生狂い咲き!?
そんな「ニクイ」やつらをご紹介。
今回は10月22日のリキッドルームにて〈ミドリカワ書房ワンマンライブ2010 リキッドdeドッキリ4″ever”〉を開催にて登場するミドリカワ書房が登場。今回のアーティストにちないんで、人生狂わせたニクい“本”を10冊紹介であります!
- 『坊ちゃん』(1906年)
- 夏目漱石
── 次は『坊ちゃん』。
ミドリカワこういうのも出しとかないとと思って。『草枕』とか『行人』とか出せば良いんですけど、ここは『坊ちゃん』。
── わりとスタンダードな作品ですよね。
ミドリカワ良いんですよね。最近、また読んだんですけど、漱石って実は暗い話ばっかりで、頭が良すぎて、暗い話になるというか。よく、そんな人がお札になったなと。頭が良くて、偉い人ですしね。なかでも『坊ちゃん』はただただ解放的な話だし。ぱっと読めますよね、短いですから。あとこの時代の人の小説って、いま読むと新鮮ですね。言葉使いとかが。
── 漱石の、この部分が好きというのはどのへんでしょうか?
ミドリカワうーん、まぁ、ルックスも良いですよね。
── あはは、文豪って感じの、あの写真はぱっと誰でも頭に浮かびますよね。
ミドリカワ男前だなぁと。写真を撮る時代じゃなかったから、他にないんでしょうけど。それとか……とにかく頭の良い人ですからね、僕はインテリへのコンプレックスがありますから……尊敬しますよね。
── 本というか、物語性ってミドリカワさんの音楽性に関しても重要なところだったりするじゃないですか? 小説を読むことに目覚めたのってなにか理由があるんでしょうか?
ミドリカワ高校生ぐらいのときですかね。それまでまったく活字を読まない人だったんですよ。面倒でしょ、小さい文字を追うのは。でも、そういうのを読まないと将来モテないんじゃないかと思いまして……漫画ばっか読んでちゃ駄目だと。音楽もそうですけど、男というのは、なにかをはじめるというのはモテたい一心ですね。
── あとから、なにかしらの理由をつけても実際はね(笑)。いまでもかなりの数を読まれてます?
ミドリカワでも、週に2~3冊ですね。今は読んでる時期です。本て読むときと読まないときって結構はっきりしてるじゃないですか? 最近はすごく読んでますね。
── 読み返したりも含めて?
ミドリカワそうですね。あとは自分も新しく開拓していて、新しい作家さんもたくさんいるようなので。勉強している最中です。
- 『恍惚の人』(1972年)
- 有吉佐和子
ミドリカワ次は認知症の方のお話で、私の歌でもまったく同じタイトルとテーマで拝借させていただいたんですけど。これが有吉さんのなかではじめて読んだ本なんです。有名な作品でもあったので、どんなものだろうと思って読んでみたんですが、描き方がすごいなと思って。認知症の症状も、知らないことがたくさんあって、小説のなかで学んだんですけど。よくここまで描くなってところまで描いてあって。本当に女流作家という感じがしないんですよね。いろいろ読みましたけど、男らしいというか。活動の仕方もそういう感じらしいので。
── 本でしか味わえない経験っていうのはやっぱり重要だったりしますか?
ミドリカワストーリーが面白かったら、やっぱり面白いのがいちばんなんですけど、文章を楽しむ読書ですね。だからなにも事件が起きなくてもおもしろく読めれば、なにを書いてあっても良いというか。単純に非日常を、小説なり、映画なりでとにかく味わいたいだけというわけでもない。「たまたま読んだらこういう話だった」というか。
── 文体というか、スタイルみたいなものを読んでみたいというか。
ミドリカワそれの好き好きで選んでると思います。そういうところで言うと、吉本ばななとかは苦手です。
── 「話はおもしろいのにこう書かれると!」みたいことってたまにありますよね。
ミドリカワそうですね。
── 有吉さんの本は他にも読んでますか?
ミドリカワ全部は読んでないと思いますが、結構好きな作家さんです。
- 『夫婦茶碗』(1998年)
- 町田康
ミドリカワ町田さんは大好きなんですけど、なかでもはじめて読んだのがコレで。実はそれまで敬遠してたところがあって。「ミュージシャンのくせに、小説書きやがって! しかも芥川賞まで!」とか思ってたんですけど。ちょっとジェラシーもあったんでしょうけどね。それで読むものかと思ってたんですけど、家人が持ってたんで、たまたま読む本がなかったときに、読んでみようかなと思ったら「この人はすごい」と思って。
── まさしく文体の人ですよね。
ミドリカワ本当ですよね。びっくりして、こんな本、読んだことがないと思って。これはすごいなと思って。町田さんの本は、小説のものは全部読んでると思います。
── ちなみにそのなかでもこれをあげたのは?
ミドリカワやっぱりはじめて読んだというのがあって。衝撃的というか。このあたりの町田さんの小説って、駄目な男が無茶苦茶するっていう話が多いんですけど、それでもとにかくおもしろいっていう。この人こそ、ストーリー云々より、語り口で読ませる人っていう感じがしますよね。
── 最後まで読むと幕切れがあっけなかったりしますよね。でも、そこまでは必ず読ませるおもしろさってありますね。
ミドリカワそうですね。ちなみに、実は音楽は聴いたことがなくて。「小説家町田康」が好きなのであって、興味がないというか。
- 『金魚生活』(2008年)
- 楊逸
ミドリカワ次は楊逸(ヤン・イー)という中国人の作家さんの作品で、この方は芥川賞も取ってますね(2008年『時が滲む朝』で第139回芥川賞受賞)。中国の方なんで、登場人物も中国人で、日本で働いてる人とか、娘が日本で働いてる人の話だったり、中国人ががんばるというような話ばかりで。この『金魚生活』もそんな内容です。この方の作品ではじめて読んだ本なんですけど。静かな小説で、ストーリー的にはおもしろいことが起きるわけでは全然なくて、なにごともなくという感じなんですけど、中国人なんで言葉の壁とか大変なんですね。それを心温まるように読ませてくれる作家さんですね。すごいことだなと思うんですよ。中国人が日本で賞を取るっていうのは。
── ちらっとメモに「理想」と書いてあるのが見えたんですが……。
ミドリカワ:あ、本当だ。僕が書くにあたっては、楊逸が理想ですね。静かな本が書きたいんですよね。歌がどうしても、突飛な、というか周りにないものを作ってしまうというか、なってしまっているので、小説ばかりは、静かなものを描きたいなと思っていて。理想ですね。最近出た『すきやき』っていうのも良かったな。
── まずはやっぱり太宰治からですね。さまざまなインタヴューでも言及されてますが。
ミドリカワもう、ねぇ。昔から読んでるし、最近読んでみるとまた違った感じもあって。よく、ひとは「太宰っていうのは子供だから読むのであって、大人になったら読まない」なんて言うんですけど、だけど「なんだと?」と読むと「いやいや、やっぱりおもしろいじゃないか!」と思うんですけど。無頼派という言葉を使い出したのは、太宰とか坂口安吾とか織田作之助とかだと思うんですけど、最近誰も使ってないので、僕もJ-POP界の無頼派と。
── いろいろ有名な作品があるなかで、こちらを選ばれたのは?
ミドリカワ新潮文庫で持ってるんですが、そちらには『正義と微笑』も一緒に収録されているんです。主人公が少年で、明るい作品で。役者を目指していて、日記スタイルの作品なんですよ。僕もこれを読んだ当時、ミュージシャンを目指してましたので、はげまされましたね。共感できました。『パンドラの匣』は最近、映画化もされましたがキャスティングに難が……。やっぱり太宰って、ファンなんで映像化するとね、ケチつけたくなっちゃうんですけど。
── 太宰作品はすべて読まれてる感じですか?
ミドリカワ文庫化されているのはすべて読んでます。たいてい好きですね。なかでも中期のエンタメ性というか、芸術性溢れる部分は好きです。
── 歌詞にも影響を及ぼしているというか。
ミドリカワ人を笑かしたいなっていうのは太宰の影響でしょうかね。