EDGE OF CHAOS
ロックでダブでエモーショナルな、どこまでもカオティックな一夜
“EDGE OF CHAOS”、このイヴェントはWRENCHが不定期で開催しているライヴ・シリーズ。今回は9mm Parabellum Bulletとあらかじめ決められた恋人たちへの2組をゲストに迎えての開催である。
まずは9mm Parabellum Bullet。「エッジオブケイオスっていうイヴェントのようなんで、とんだケイオスな空間になることでしょう。俺はそれを楽しみにしています」そんなヴォーカル菅原の言葉どおり、とんでもなくスリリングでカオスな、いや、ケイオスなライヴを魅せてくれた9mm。真紅に染め上がったステージに登場した彼らは、“(teenage)Disaster”からはじまり“Discommunication”“Wanderland”…と一気に畳み掛け、4人のテクニックと衝動がぶつかり合いながら登り詰めていくような気迫のプレイが炸裂! 全曲が必殺キラーチューンである。沸点を何度も振り切るようなパフォーマンスで、観る者に息つく暇すら与えないままにラストの“Lovecall From The World”まで駆け抜けフロアを沸かせ、トップ・バッターとしての役割を十分に果たしてステージを去った。
そういえば、終盤戦で“We are Innocent”から“Termination”へとなだれ込むように入った瞬間にギターの滝がステージから消えてそのまましばらく見えないと思ったら、両足をつって倒れていたらしい。そりゃあ、あれだけ暴れ回れば……と9mmのライヴを1回でも観たことがあるひとは納得かもしれない。倒れながらもギターはしっかり弾いていたんだからさすがである。
続いて登場したエレクトロ・ダブ・ユニット、あらかじめ決められた恋人たちへ。深めのリヴァーヴが効いたスネアが雷鳴のように打ち鳴らされると、がらりとフロアの空気が変わった。というか、揺れた。なにしろ音が、これでもかというくらいデカい! 細かく刻みながらもどっしりと重たいリズム隊によって産み出される大迫力のグルーヴが、本当にキモチ良く響く。そしてそこに絡むテルミンとパーカッション、そしてピアニカ。音の洪水のなかを自由に泳ぎ回るピアニカの哀愁漂う音色と郷愁を誘うメロディーが、ぐいぐいと訴えかけてくる。それらが絶妙なバランスでもって爆音で迫ってくるのだから、まさに音の波状攻撃とも言うべきだろうか。途中にはフロアもステージも照明を全部落として真っ暗になったところに、鍵盤ハーモニカ奏者でありフロントマンの池永がリズムに乗って小さなライトをぐるぐる振り回すという暗闇を利用した演出があったり、スモークが多めに炊かれていたりと、その妖しくも甘美な世界観に視覚的にも聴覚的にもヤラれてしまった人は多かったことだろう。
そしていよいよ今宵の首謀者、WRENCHの登場である。暗めの照明のなかにノイズ音が響き渡る。暗幕が開くと、フロントマンであるSHIGEの「ワン、トゥー、スリー……」というカウントが入る。それに合わせて段々と高まる興奮と緊張、そして大きくなるノイズ音と共に徐々に光を宿すステージ。「ビギンー……!!!!!!!」というSHIGEの絶叫がこだまするとライヴのスタートを告げる真っ白い閃光がステージから放たれた。壮絶なライヴの幕開けである。これでもかというくらいソリッドで爆発的なエネルギーで激しく迫り来る轟音に、フロア前方はモッシュ・ゾーンへと変貌。オルタナ、エレクトリック、ハードコア、ダブまで貪欲に取り込んで消化され昇華された完全にオリジナルなサウンドは、リキッドルームの会場を乱反射するように響きまくっていた。踊りまくるフロアに向かって「今日はいいんじゃないかこれ! いいよこれ!!」「もっと!もっと! もっときてくれー!」とリヴァーヴのかかったマイクでたびたび絶叫するSHIGE。彼らの放つ音を全身で受け止めていると、脳内麻薬がどんどん分泌されていくのがわかる。サイケデリックな色使いのVJも相まって、その効果はどんどん増幅されフロアをカオスに染め上げていた。混沌とした世界観がなんとも凶暴に、そして時折美しく響くのは、凄まじく圧倒的なパフォーマンスの故だろう。今宵を締めくくるに相応しい、確固たる強靭なサウンドで会場を丸呑みにする鉄壁のアクトだった。(山田佳緒里)