LITTLE CREATURES
三者三様、渦巻くグル—ヴの個性と魅力
『リトル・クリーチャーズと「対バンお願いします」企画の第一弾。1月19日にリリースされたカヴァーアルバム『Re:TTLE CREATURES』に参加したtoe、向井秀徳率いるZAZEN BOYSが初回の対バン相手に迎えられた。三者三様のリズム、グルーヴの個性の差異を十二分に堪能できた一夜だった。
照明が点くとステージ奥にホリゾント幕。簡素にも見える器材と白い幕に浮かび上がる照明の慎ましさが終始新鮮でいて、シンプル故に空間を惹きたてていた。そこへ登場するのはZAZEN BOYS。目の前で四人が楽器を演奏しているのに、繰り出されるリズムとビートが寸分の狂いの無い様に機械の反対語として「人力」とイメージしてしまう。それほどに生理とは結びつきにくいようなビートが完全な再現性で、しかもライヴ感を伴って演奏された。音源の完全再現でもすごい、毎回無音の長さが違うなら、それももっとすごい。また、無音の緊迫にオフマイクから耳に届く向井のカウントがバンドの一体感を呈していた。「Weekend」などでは立ち上がった松下(Dr)と吉田(Ba)が会場の手拍子を誘い、単純な刻みでフロアを沸かせる。空白を刻むと同時に、無意識で踊りたくなるビートをも刻むザゼン節満載のステージだった。
対してtoeは流動的なリズムの中に音を重ねてゆく心地よさに満ちていた。淀みなく進む歌声の乗らない純粋なサウンドに意識を任せ、ただ没頭してその心地よさを堪能する。しかし、実際に奏でられているのは変拍子であり、拍を刻みながら聴くと、どこか微妙にずれていたりする。必ずしも気持ちよくストンと音がハマっている訳ではない。それでも複雑な拍の絡み合いが一つの大きな流れになると、意識を持っていかれそうなほどの一体感。能動的に細部の噛み合わなさを楽しむことも出来れば、全図として提示される音像に耳を委ねることも出来る。中盤ではコトリンゴが静かに登場、“toe feat.コトリンゴ”として『Re:TTLE CREATURES』にも収められている「HE PASSED DEEPLY」が披露された。切り貼りして尚、緩やかに流れて行くtoeのグルーヴにコトリンゴの柔らかな声が楽器のように絡む。曲が見事に新しく生まれ変わっていた。
そして本日の主催、LITTLE CREATURES。演奏時間自体はゲスト二組と大差はなかったはず。なのだが、その演奏の密度たるや何曲演奏されたのか、どのぐらい時間が経ったのかもわからなくなるほどに濃密だった。非現実さを強く感じるほどに惹き込まれる約一時間。ゲスト二組もリズムや拍子の刻み方、流れ方が独特だが、LITTLE CREATURESのそれも同様に独特で秀逸だった。拍の微妙な刻み方、リフレインが何度と続く結果生じるズレなどが、実に自然に織り込まれている。ひとつのリフやフレーズに身を任せているといつの間にかズレが生じ、それがまた綺麗に収まる瞬間が訪れる。ステージ上の三人はそれぞれに複数の楽器を落ち着いたさまで淡々と演奏していくが、そこから放たれるサウンドの貫禄が半端ない。大袈裟なことがおこなわれている訳ではないのだが、奏でられる音の世界は実に壮大。三人の多様な音楽遍歴が一瞬の音色に込められているのが窺い知れるほどに豊かな音色が重なっていく。知的で上品なサウンド、しかも演奏力に裏付けされた至高のスリーピースである。演奏曲はというと新作『LOVE TRIO』、同時発売されたベスト盤『OMEGA HITS!!!』からの曲が多めながら、『Re:TTLE CREATURES』からの演奏もあり。20周年を記念した三部作を押さえた充実の選曲だった。
アンコールでは粟原がZAZEN BOYS、toeに謝辞を送るとともに次回は本日も一曲参加したコトリンゴとの対バンが発表された。“TURQUOISE SEA”をビシッと演奏してステージを降りた三人の次回の対バンイベントにも期待が高まる。(渡邉祐子)