口伝、パンク・ヒストリー
初めてパンクという言葉を大々的に使った『パンク』誌の元ライラー、レッグス・マクニールが書いたオーラル・ストーリーによるパンク・前夜、パンクの歴史書。
オーラル・ヒストリーというのは口頭による証言集。ミュージシャンや関係者がしゃべっているだけだけど、これが面白い。
見えなかった歴史がどんどん見えてくる。
「うそっー」と言いたくなる話ばっかりである。今はローリー・アンダーソンと静かな生活を送るルー・リードは、「俺の顔にウンコしてくれ」とか言ってるし、こんなこと書かれて訴えないことを見ると本当の話なんだろう。僕が子供のころ聴いていたルー・リードのエピソードはこんなのばっかりだったけど。
この物語で感動するのは、こうしたエッジの尖った音楽をサポートしてきた人たちがみんなゲイだということだ。MC5のディレクター、そして、その後ストゥージズ、ラモーンズのマネジャーになったダニー・フィールズもゲイ。テレヴィジョンを売り出すために頑張ったテリー・オークもゲイ、セックス・ピストルズに入る前、ハートブレイカーズのマネジャーで、フラワー・オブ・ロマンスのフロントマンとして模索していたシド・ヴィシャスを売り出そうとしていた元デヴィッド・ボウイの会社の副社長、リー・ブラック・チルダースもゲイ、みんなゲイなのだ。
彼らは男に惚れ、音楽に惚れ、彼らをなんとか売り出そうとするのだ。
この本を読んでみんなゲイにリスペクトなのだ、って、そんなアホなオチでいいのか、ロックが好きな奴はこの本を読まなければならない。この本はのNYドールズ、ハートブレイカーズのドラマー、ジェリー・ノーランが、10歳のときにエルヴィス・プレスリーのコンサートを見たときの言葉で終わっている。彼のこの言葉を読んで泣かない奴はロックじゃない。よくわからないなという人はこの本を読むことをお薦めする。読んでもこの彼の言葉が身にしみない人はロックは一生分からないかもしれない。
「エルヴィス・プレスリーは白いジャケットに黒のバキー・パンツだった、プリーツ入りの。内側が白くて、白いステッチが入っているやつ。靴はツートンカラーで、先が白で両脇が黒、ロックンロール・シューズだな。
俺はすごく興奮した。みんな夢中になってたよ。あんなステージやれる奴、俺はあのとき初めて見た。
ステージでエルヴィスがぱっと尻ついて、開脚みたいなことやったんだ。片方の靴がまっすぐ俺の方に向いた。そしたらその靴がさ、すごくくたびれてるんだよ。気に入ってる靴だったのかもしれない、捨てる気になれなかったのかもしれないな。だけどそのとき俺、ちょっと気の毒にもなったんだ。きっとエルヴィスって貧乏なんだって、思ってさ。でもそこが俺は気に入った。彼もストリート・キッドみたいだって思って」
この本にはこういう本当のロックンロールのことが書かれています。