理想的なライヴの在り方とは?
クラムボンのライヴは、単なる音源の再現=ライヴではないということを、つくづく痛感させられる。テクニックとエモーションとエナジーが三位一体となったバンド・サウンド。それを媒介としてなされる、バンドとオーディエンス間のエネルギーの循環。あの、サウンドが“会場中で鳴っている”という経験はなかなか忘れられない。
2006年発売の『3peace』に続くクラムボンのライヴ・アルバム。2011年の春から秋にかけて全国を回った“ドコガイイデスカツアー”での演奏が収録されている。このツアーのルールは“ライヴ・ハウスではない何処か”での演奏。それはカフェや美術館、小学校の旧校舎や酒蔵などの会場を、1日だけのライヴ・ハウスにしてしまうというツアーだった。必要な機材もクラムボン本人たちで用意、搬入から搬出まですべて自分たちでやってしまうという極めてD.I.Yなツアー。機材もツアーの途中で必要なものがどんどん補完されていったという。本作には演奏も機材も熟成された終盤戦、九州~沖縄のライヴから楽曲がチョイスされている。2枚組というヴォリュームとベスト的選曲に加えて、なんといっても音が良い。その特殊な環境のおかげか、音の輪郭が本当に柔らかで美しく、会場の息づかいがハッキリと聴こえてくる。手拍子や歓声や笑い声、たわいもないMCや、演奏中に電源が落ちるハプニングなどもそのまま収録されている。
クラムボンは自分たちのやり方で、自分たちの音楽がいちばん“響く”方法をずっと模索し続けてきたバンドだと思う。そして自分たちの肌にあった“理想的なライヴの在り方”のひとつを完成させ、この作品で提示したのだと思う。屈指のライヴ・バンドと謳われる彼らが、またその名を不動のものとする名盤だと私は思うのだ。