空洞の先へ――リラックス、ドリーミー&サイケデリック
引き算の喜悦。スッカスカの、質量の感じられない音。そんな軽い音だからこそ生み出せる、ある意味で逆説的な、音の巨大なる存在感。出戸のヴォーカルが、そのサイケデリックなサウンドの隙間で自由に浮遊していく。もちろんそれは絶妙なバランス感覚でもって、極上のドリーミーなポップスとして成り立ってる。パワーやハイテンションという言葉になぜか弱い日本のロック・シーンのなかで、割と引き算の心地良さというものに自覚的であったイメージのある彼らだが、ここに来て彼らのそんな側面が1枚のアルバムにすばらしく結実した作品。ここ数作で関係を深めているゆらゆら帝国の裏方チーム、石原洋(プロデューサー)&中村宗一郎(エンジニア)を迎えての本作は、もちろん『空洞です』のメソッドを受け継いでいる部分は多分にあるが、むしろトリップ度はこちらの方が断然に高い気がする。乱暴な言い方で恐縮ですが、これを聴いて思い浮かんだのは、NEU!のギターリスト、ミヒャエル・ローターのソロと石野卓球のファースト『Dove Love Dub』の“Monkey Dance”~“Trip-O-Matic”の流れ、あとNed Doheny『Hard Candy』を混ぜて、絶妙にダブ・ミックスしてしまったというか、つまりテロテロでトロトロだけど、ポップスとして成立している。すごいですね。