宣伝文句はシンプルに「最高傑作、ここに誕生!!」なんだけど、これしかない
毎作、違った顔を見せてくれ、今回はどんな感じになるんだろうというのがいつも楽しみのくるりの作品。そんな彼らの10作目『坩堝の電圧』。今回は前作『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』の「さようならアメリカ」などを聴いていると、“アメリカン・ロックンロールへの訣別、これからは自分たちの音楽を歩んで行くぜ”みたいな強い意志を感じていたので、そのあとが楽しみだった。
僕は『坩堝の電圧』は、いままでのくるりを全部やるというアルバムだったのではないかと思う。『図鑑』あり、やっぱロックンロールが全ての音楽の原点なんだよと宣言しなおしたかのような清い“ロックンロール”、エレクトリックな「ワールズエンド・スーパーノヴァ」、『坩堝の電圧』には、そんないままでのくるりが全部ちりばめられているような気がする。
変な例えなんだけど、ある人気店の焼き鳥屋さんの主人が、ある日何を思ったか、中華屋さんをやると決意、その中華屋さんも何年か経つ頃には、ミシュランなんかの星をもらうような名店になっていた、しかし、また同じ店主は、「俺フレンチやるわ」と、中華屋をたたんで、フレンチ店をやる。焼き鳥屋と、中華との違いに最初は手間取ったが、いつしかそのフレンチ店は、世界の有名シェフがお忍びで訪れる名店になった。しかし、また主人はフレンチをたたんで、焼き鳥屋をするという。その焼き鳥屋さんは1回目の焼き鳥屋さんとは全然違ったものになっていると思う。絶対おいしい焼き鳥屋になっていると思う、誰も食べたことない焼き鳥屋になっていると思う。そんな感じを『坩堝の電圧』に感じる。
そりゃ、店ばっかり変えて、ダメになっていく職人も多い、でも『坩堝の電圧』は、そんなアルバムじゃない。どの曲も、転がりながら、どんどんくるりの要素を溜め込んで、でっかいスーパーボールになったような曲ばかりだ。
唯一、テーマがあるとしたら、ニュー・ウェイヴ、ポスト・パンクという感じもするが、そういうのは、いつも、くるりにとってはどうでもいいことだ。
宣伝文句はシンプルに「最高傑作、ここに誕生!!」なんだけど、僕も思うけど、これしかない。これしか、言えない。凄い19曲が並んでいる。レコード会社も、本人たちもよく分かっている。そりゃ、あの大惨事がこんな凄いアルバムを作らせたとか、そういうことは色々言えると思う。でも、そういうことじゃないだろう。ロックには、そういうの当たり前だし、くるりにとっても、いつもそういう状況だったはずだ。
最後に岸田くんに言いたいんだけど、ここ何枚かのくるりのアルバムから、聴こえてくるギターの音は世界で一番いい音だと思う。