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マジカル・ミステリー・ツアー

『マジカル・ミステリー・ツアー』

ザ・ビートルズ

[label: EMI MUSIC JAPAN/2012]

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ちゃんと見てください、けっして意味不明の映画ではありません。ちゃんとメッセージがあります。

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文:久保憲司

 ザ・ビートルズのマジカル・ミステリー・ツアー初めて真面目に全部見ました。テーマがない、意味不明と批判されるTV映画でしたが、大人になって見ると、テーマはちゃんとあるじゃないですか、オチもあって、感動しました。
 オチは最後に歌われる「ユア・マザー・シュッド・ノウ」です。
 ヒッピー・ソングの代表曲ジェファアーソン・エアプレイの「ホワイト・ラビット」”ある薬を飲めば、大きくなったり、小さくなったり出来る。でも、お母さんがくれる薬はもう何の役にもなたない”と同じ。ザ・ビートルズも、”時代は変わったんだ、君のお母さんはそれを知らないといけない”と歌っているのです。
 マジカル・ミステリー・ツアーについてではないですが、古い世代の人に、新しい世代の若者を暖かく見守ってくれとポール・マッカトニーが言っているインタビューが残っています。このインタビューは『マジカル・ミステリー・ツアー』の裏側を描いたドキュメタリーで見れます。
 「LSDでトランスする若者たちに眉をひそめないでほしい。怒りを捨てて、何も考えずに彼らを見てほしいんだ。一切の先入観なしにね。そうしなきゃ理解できない。彼らは自分自身でいたいだけなんだ。それは誰もが望むことだ。物事を自由に表現するのは人間の権利だ。すごく基本的なことだけど、外から見たら変に映るかもね。」 
 このポールの言葉が『マジカル・ミステリー・ツアー』というTV映画がどういう映画なのか、端的に語っています。
 バスに乗ったら、突然見ず知らずの人たちが恋に落ちたり、色んな変わった人達が同じバスで仲良く過ごしていくシーンを描きなかが、当時NO1だったポップ・バンドが、これからの世の中はこういう世の中になるんだよというメッセージを送ったのです。お母さんが「そんなことはダメだ」と言ってももうそうなってしまうんだよ。と告げたのです。
 でも、このアイデアはポールだけなんです。当時の若者革命を煽動していたアングラ新聞インターナショナル・タイムスと共闘を組んで真剣に闘おうと思ったのはポールだけなのです。
 「レボリューション」で歌ったようにジョンはそういう運動で世の中がよくなるという事には懐疑的でした。また、この頃のジョンとジョージはドラッグにハマっていて、政治運動をすれば、自分たちが一発で逮捕されてしまうだろうとおびえていたんだと思います。
 『マジカル・ミステリー・ツアー』でポールとリンゴは役者とコンビを組んでいるのに、ジョンとジョージがコンビになって座っているのは、二人が同じドラッグにハマっていたからじゃないでしょうか。二人はヘロインにハマっていたんだと僕は思っています。
 ジョンとジョージは一度ドラッグで捕まっていたので、もし次に捕まれば実刑という恐怖感もあったでしょう。ポールがポップ・スターで初めてメディアに向かって「自分はLSDをやったことある」と答えたのは、彼がまだ捕まったことがないからです。ジョンとジョージはこのポールの発言を「お前がそんなこと言うと俺たちがまた危なくなるだろう」と歯がゆく思っていました。
 『マジカル・ミステリー・ツアー』を今見て思うのは、もし、この時にザ・ビートルズの4人が、「革命だ」と団結していたら、世の中は変わっていたんじゃないかなと、思うのです。
 しかし、ザ・ビートルズの4人は『マジカル・ミステリー・ツアー』を見て分かるように、そういうメッセージは明確に言わなかったのです。ポップ・バンドがそういうことを言うべきじゃないだろうと、4人で結論づけていたんだと思います。それが『マジカル・ミステリー・ツアー』を分かりにくいとさせた原因だと思います。でも、分かる人は分かったんだと思います。このTV映画が作られた2年後、百万人以上の若者たちが、古い世代にノーと言って、自分たちの『マジカル・ミステリー・ツアー』を始めたんですから、それが1年後の5月革命であり、ウッドストック、ワイト島だったのです。
 そして、本当に何百万人もの若者たちが古い世代にノーと言って、世の中が変わる寸前までいきました。でも、その戦いはジョンの予想どおり、上手くいきませんでした。
 でも、面白いのは、みんなが革命だと言っている時に何もしなかったジョンが、フラワー・パワーが終息していっている時に、ヨーコさんと二人で立ち上がるのです。アメリカから危険人物とされるくらい平和運動に没頭するのです。その時のジョンを見てると、あの時変えれたはずなのに、何もしなかった罪悪感としか思えないのです。
 もし、ジョンがこの『マジカル・ミステリー・ツアー』を作っている時に、ポールの意見に同調して、「やっちまおうぜ」と言っていたら、若者革命は上手くいっていたんじゃないかなと、僕は『マジカル・ミステリー・ツアー』を何十年ぶりかに見て思いました。

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