GRIZZLY BEAR
成熟のモダンアメリカ
ブルックリンから届く骨格のデカい音楽
とにかく骨格のデカい音楽だった、それは音圧や音量ではなく音楽として放つエネルギーの大きさとしてだ。 前作veckatimestの来日公演を見逃していただけに今回の公演は心待ちにしていたのだが ここまでライブ感のあるバンドとは正直思っておらず、、、演奏が鳴り響いた瞬間から歓喜の声をあげてしまうほどであった。 昨年発表したアルバム『shields』自体がバンドとしての更なる飛躍と成熟を表す内容だったように 結成当初の内省性のあるフォークからはかけ離れ、ステージに立つ彼らと発せられる音は前へ前へと伸びていく。
オープニングアクトはいなかったため、ほぼ時間通りに彼ら4人とシンセのサポートメンバーがステージにあがり シンセベースの唸りと共にSpeak In Roundsから始まる。 曲構成自体が後半に向けて上昇していくため、フロアとステージが一緒に温まっていくという展開。 隙間のないくらい人で一杯の会場が徐々に揺れていく。
続くsleeping UteやCheerleader、Yet againなど名曲過ぎる流れの中 1枚目のアルバムからshiftが演奏される。
これは彼らの音楽を元に制作されたblue valentaineという映画の中で最も印象的に響いており 非常に孤独感のある楽曲なのだが、映画の内容も夫婦の出会いから別れを描いていたため 繰り返し聞こえるフレーズが映画自体を司っていたほどであった。 他の曲においてももちろんそうだが、彼らのバックグラウンドに脈々と流れるトラディショナルなフォーク は誰しもにある孤独を体現しており、Grizzly Bearの音楽自体はそれに寄り添ってくれる音楽だというのが 初期の印象であった。そして今回、分つという言葉の意味がライブにおいて様々な感情を共有する事へと変換されていた気がしてならない。 Ed drosteとDaniel Rossenの二人のリードボーカルが互いに混じり合い4人全員のコーラスとして溶け出す瞬間などは 会場全体として大きな感情を生み出すような、言い表せぬ言葉の集合体であった様に感じる。
そしてそれをライブパフォーマンスとしてエモーショナルに作り出す際に最も魅力的だったのは彼ら自身のマルチプレイヤーとしての 技術によるところが大きい。 Edはボーカルをとりながらもギターや鍵盤を扱いながら彩りを加えていき、Danielは素晴らしいギタリストとしてのプレイから Rhodesを弾きながら歌っていたかと思えばシンセの方に走っていき奥の方でも他の鍵盤を操っていた。 筆者としてはとにかくdanielのギターを生で聞けた事がたまらなく嬉しくてしょうがなく
liquid roomの音響は文字通りそれを最大限まで増幅させていた。
更に驚く事に音源で聞かれるサックスやフルート、クラリネット等の管楽器 の演奏は全てベース件マルチプレイヤーのChris Taylor本人によって演奏されていたのだ。 ギタリストが鍵盤を弾くのとは訳が違う、ましてや1曲の中でここまで色々楽器を変える ミュージシャンの姿はなかなか見れるものではないだろう。 あくまでも自分達の体で表現をするという姿勢がまじまじと現れており 共有された感情は熱気を帯び、奇妙なPVが公開されているGunshyやready Ableを経て Veckatimest屈指の名曲 While You Wait For The Othersへとたどり着く。 この後に演奏したTwo Weeksはひと際オーディエンスからのリアクションも大きかったが While You~を前作のベストトラックにあげるリスナーは結構多いんじゃないだろうか??
そして最後にはアルバムと同じくSun In Your Eyesで締めくくられる。 モッシュをするわけでも、ダンスをするわけでもないが 観客達はステージにいる彼らと、会場を覆う音に文字通り熱狂してした。 誰彼もが静かながら熱い物を感じていたと思う。 それこそが音の骨格の大きさを物語り、皆身を委ね、声に抱かれていた。 熱狂覚めやらぬまま3曲のアンコールの後、終演となったが 1時間半のパフォーマンスの中で血が入れ替わったような気分だった。 彼らの音楽は澄みきっている。