Spangle call Lilli line 笹原清明photo exhibition『ear』
バンドの音楽の視覚化
早いものでSpangle call Lilli lineが結成15周年を迎えた。現在、彼らはある事情で対外的な活動を控えているが、バンドにとって節目の年に2枚目のベストアルバム『SINCE2』がリリースされたばかりだ。『SINCE2』はベストアルバムといっても、単純に過去の音源を並べたディスコグラフィではない。アルバム初収録、初音源化となる楽曲まで網羅したDISC1。さらにDISC2では、スパングルの代表曲である「nano」にフォーカスを絞り、7種類のアレンジ・リミックスによる新しい「nano」像を提示。新旧ファンを問わず、彼らの表現を知るための最適な作品に仕上がっている。
また『SINCE2』のリリースに合わせて、KATAではメンバーの笹原清明による写真展『ear』を開催している。展示作品は全て青で統一し、美しく儚い世界観を一色の階調で表現した、スパングルの音楽と表裏一体の関係にある。バンドのギタリストである以前に写真を生業とする笹原に、今回のベストアルバムと個展について答えてもらった。
巷では解散したと思っている人もいるんじゃないですか(笑)
── 2006年に『SINCE』をリリースして以来、2枚目のベスト盤となりましたね。まずは『SINCE2』をリリースすることになった背景から聞かせていただけますか。
笹原大坪さん(大坪加奈、ヴォーカル)が出産して、しばらくバンドとして稼働が出来なくなったんです。それで、出来ることはなんだろうと考えたら、ベスト盤を出すことだったんですね。特にメンバーもベスト盤を出したい、出したくないというこだわりはなかったので、じゃあ、やりましょうという感じで。ただ、僕らのCDをたくさん持ってくださっている方には必要ないものかもしれないですし、単純に過去の音源集を出すのは面白くないということで、「nano」にフォーカスしたDISC2を作ることにしまして。
── これまでもスパングルは、セルフカバーとかリミックスとかを積極的に取り組んできましたよね。
笹原そうですね。今回は7曲分の「nano」を用意してやったら面白いんじゃないかということで、リミックスやゲストヴォーカルを頼むことを考えていました。「nano」は『SINCE』に入っている曲で、今回の『SINCE2』では、はじめて買ってくれた人にとって「僕らの代表曲にnanoという曲がありますよ」ということで入れようと。あとは料理しやすいというか、7バージョン作るとしたら、ポテンシャルを秘めた曲が良かったので「nano」を選びました。
── 一方のDISC1も、吉田仁さん(SALON MUSIC)、益子樹さん(ROVO)、美濃隆章さん(toe)、永井聖一さん(相対性理論)など、アルバム毎に必ず共同プロデュースという形をとってきましたよね。
笹原今回のベスト盤には色んな方との関わりというのは、テーマとしてあるかもしれないですね。実はセルフプロデュースって1st(Spangle call Lilli line)でしかやっていないんですよ。2ndの『Nanae』は益子さん、3rdの『or』は吉田仁さん、それ以降も色々な方々にお願いしていて、『dreamer』では永井さんにプロデュース以上の関わり方として演奏と作詞もしてもらいましたし。
── バンドとして変化を付けたかった、色々な表情を見せたかった、という意図があったのですか。
笹原結成当時はドラマーがいて4人でしたけど、最近は3人なので、そもそも音楽をやるにあたって、サポートのリズム隊とピアニストを呼んだり、人とやるのが大前提なんですよ。だから、その辺はあまり拒否反応がないというか、ある意味、誰かとやることがスパングルみたいな側面もありますね。
── なるほど。大坪さんのご出産のお話がありましたが、バンドの現状として、オリジナルアルバムの制作やライブに取り組めないというのは、なんとももどかしいですね。
笹原そうですね。巷では解散したと思っている人もいるんじゃないですか(笑)。2010年にここリキッドルームでワンマンライブをやって、それで「ライブ活動休止」としたんですけど、それを「活動休止、解散」と捉えている人もいるみたいで。2010年に『dreamer』と『VIEW』と『forest at the head of a river』を出して、それ以降は『New Season』というシングルとセルフカバーアルバムの『Piano Lesson』とライブ盤(『SCLL LIVE 2』)を出したんですけど、オリジナルアルバムとしては3年も出せていないんです。だから、「アルバムが出るけど、新譜じゃないのかよ!」みたいに思っている方もいるかもしれない(笑)。今回の「nano」のリミックスは、どれも素晴らしくて大好きだけど、やっぱり新曲を作りたいなとは思っていて。でも、まずは大坪さんに子育てを頑張ってもらおうと。彼女の状況が整ったら、次の新譜は絶対にオリジナルアルバムです。それが1年2年後になるかは分からないけど、あわせてライブもやりたいですね。元からライブをあまりやらないバンドではありますけど。
── たしかにライブの本数としては少ないですし、1回のライブが貴重になっている印象はありますね。コンスタントにやってきていないのは、やはりバンドが本業ではないからですか。
笹原そうですね。それが大きくて、たまにしかライブをやらないものだからハードルが高いというか。演奏ってライブを重ねてビルドアップされていくので、一回やって長い間空いてしまうと、またゼロから体を鍛え直して途中で終わっちゃうみたいな感じがあるんです。それでハードルが高くなって、余計にやらなくなる悪循環に陥ってしまうというか。最後のリキッドの前も1年に1回あるかどうかでしたしね。
── 1回リセットされてしまうんですか。
笹原1年に1回だと曲も忘れちゃうし、ようやくバンドが固まってきたところで、「よし、ここからだ」と思った時にまた来年みたいになっちゃう。本当はツアーを何本もやってみたいんですよね。リハを何回やっても、リハはリハで練習にならないというか。本番を何回も経験することで上手くなっていくというか。だから、いつもライブをやると、ネットでは賛否両論の声が上がるんですよ(笑)。入念に準備はしているんですけど、どうしても経験不足なもので。でも逆に、周りのバンドが出来ないことを僕らはやっていると思います。アートワークに関してもそうですし、活動状況も契約と売上に縛られることもないですし。そういう意味で、ライブはコンプレックスでもありつつ、僕らのやり方でいいでしょっていう気持ちと半々であるというか。
忘れられても不思議じゃないのに、待ってくれている人たちがいる
── 個人的にはライブの本数をこなせない分のエネルギーとフラストレーションが、パッケージに注がれていると思っていて。そこでアートワークについてお聞きしたいのですが、スパングルは1stから一環として、3人でアートワークの制作をやり切っているんですか。
笹原『SINCE』だけ北山雅和さんというデザイナーの方にお願いしているんですが、基本的には自分たちですね。初期の頃は大坪さんのイラストですし、最近は写真が多いので僕の作品を使っていますね。
── 藤枝さん(藤枝憲、ギター)はデザイナー・アートディレクターという立ち位置になりますよね。
笹原そうですね。藤枝は、クライアントが自分たちだから好きなことができるということで楽しいみたいですよ。ジャケットだけ作っていたいといつも言っていますね。
── 笹原さんは写真家として、たくさんのCDジャケット・アーティスト写真などを手掛けてきましたが、自分たちの作品とクライアントワークでは撮る意識は全く異なりますか。
笹原僕らの場合、まずはリーダー(藤枝)からオーダーがあるんですよ。「こういう写真がない?」という、例えば『PURPLE』の時は「夜の西海岸の街並みの感じ」と言ってましたね。実際のジャケ写は日本のお花屋さんですけど。『forest at the head of a river』は夕方の森のちょっと湿った感じ、『dreamer』は永井さんの詞の世界観がポップだったので、開かれた明るい感じの写真がいいなということで、自分の作品撮りしたものの中から女の子のポートレートを使いました。今回の『SINCE2』は「ノープランだから任せる」と言っていたから、スパングルでノープランのオーダーが来たのは、はじめてだったかもしれないですね。
── 3人ともクリエイター気質だと、一回一回のアートワークを決めるにも大変じゃないですか。
笹原昔はあーだこーだ喧嘩ばかりやっていましたね(笑)。でも、最近は大人になって、うるさく言わなくもなり、風通しが良くなったと思います。長く続けていると、やりたいことを押し通さなくても、結局はやりたいことになるんです。昔は1センチでも自分の陣地を取り合うみたいなところがあったけど、そんな労力を掛けなくてもちゃんと自分の居場所はあるというか。逆に、人に任せた方が自分のやりたいことに早く到達するということもあるし、そういうことがみんな分かったんじゃないですか。だから50歳までバンドをやろうとか言っていて。最近の音楽は移り変わりが激しいじゃないですか。こんな活動状況で忘れられても不思議じゃないのに、2年とか期間が空いても「ライブやらないんですか?」と気にかけてくれる方々がいるので、待ってくれているファンがいることは、ほんと有り難いですね。
── 凛として時雨や相対性理論をきっかけにスパングルを知った人もいると思いますし、そういう意味で知ってもらうための間口が広いベスト盤になりましたね。
笹原そうですね。変に100万円とか掛けて広告を打つより、たまに北嶋くん(TK、凛として時雨)とか永井さんみたいな方たちの力をお借りして、ちょっと話題性もぽんと放り投げる。そうやって波紋を広げていくというか。今年でスパングルを15年やってきたことになるので、結成当時に生まれた人が15歳で高校生だから、ちょうど音楽に興味を持ち始める時期ですよね。そういう人が聴いてくれたりしたらいいかなと思っていて。昔から聴いてくださっているファンの存在も有り難いですし、また若い人たちにも聴いてもらいたいですよね。