Mount Kimbie
彼らの心の距離感
前作から3年を経て発表された2ndアルバム”cold spring fault less youth”
と共にmount kimbieが再び来日を果たした。
liquidroom presents house of liquidのショーケースという形だったが
海外ではDJの間に挟まれてライブをする機会も多い2人だけに
ダブステップ以降のバンドという彼らの本来の姿を見る素晴らしい機会だったと思う。
まず彼らの代表曲であるcarbonatedからライブは始まり、空気砲のようなシンセに
そのサウンドを特徴づけたピッチシフトされたビートが絡むとそこにはメランコリックな
音の世界が広がっていた。
去年soner soundで見たときよりも遥かにライブエディットされており
より疾走感を増したサウンドに引き込まれていく。
before i move offの白昼夢のサイケデリックを挟み、今作の1曲目にあたるhome recordingが始まった時
彼らが新たに手に入れた音のマジックに思わず震えてしまった。
親交の深いThe XX譲りのメランコリック、甘美な音の波打ち際のような揺れは哀愁を帯びて
深いオルガンの響きと共にじっくりと染みてくる。
mount kimbieの最大の魅力は彼らがあくまでもバンドとしてライブ表現を行う事と
音の距離感の作り方が抜群に巧い事だと思う。
いわゆる角の立った電子音が後退しナチュラルなリヴァーヴやぼんやりとしたオルガンをレイヤーする事で
彼らが多感に影響を受けたダブステップや当時のロンドンのシーンを遠くにぼやかしている。
それはとてつもなく遠いようで今でもあり未来がある、20代後半の時間感覚を表しているようだ。
前作crooks&loversが彼らが描く都市や周りに対する距離感の描写とすれば
今回のアルバムは彼ら自身の心の距離を表した作品なのだろうと思う。
blood and formは何故か古い遊園地を思い出させ、made to strayはそのタイトルが指す通り
明け方のクラブからフラフラで帰る時に後ろから聞こえるフロアの音のように感じる。
酔っぱらっているとふと全く関係のない記憶が呼び戻される時の妙な距離感。
自身の記憶を客観的に捉える事で生まれる浮遊感がこのアルバム全体には漂っており
ライブにおいてもエディットを重ねながらパフォーマンスをする以前の曲とは
違い、よりソングとしてじっくりと演奏されていた。
新たにライブメンバーとしてtony kusというドラムが加わった事による変化も大きいようで
break well やso many times,so many waysといったバンド主体の曲では
kai camposの弾くメロディックなベースを含めた3人によるパフォーマンスが
交わる事で彼ら自身の未来を映しているようでもあった。
長いツアーや制作に2年間を空けた事による変化が曲名やパフォーマンスに素直に反映されており
何とも人柄が滲み出てしまうのだろう、インターネットを通して広がった音楽だが、90年代的な人間臭さがあり
経過していく時間を愛おしく思えるような素晴らしいライブであった事は間違いない。
タイムスケジュール上アンコールはないものと思われたが、フロアからの声援に答え
こちらもエディットされよりテクノに近づいたmayorを演奏し続くsinjin hawkeへと繋いだ。
唯一悔やまれるのはking kruleをゲストボーカルに迎えた2曲を聞けなかった事か。
本人が登場しない限り不可能ではあるが、you took your timeの未来のダブサウンドはいつかライブで聞いてみたいと思う。
追記
縁あって彼らのオフに同行する事になったのだが、やはり彼らは20代の真っ直ぐな青年達であり
どこに行きたいかと聞いたらmore extreme,more underground,super popularとの答えが返ってきたので(笑)
東京エクストリームツアーを決行。
3日間のオフという事だったのでフリードミューンに始まり、アミューズメントパークでバッティングをして手にタコを作ってから
下北沢にてジャパンアンダーグラウンドミュージックに興奮、中野ブロードウェイでは熱心にAKIRAのポストカードを選び、
築地では早朝から3時間並んで寿司を堪能し、念願のロボットレストランでのショー見物を叶えてからのカラオケと
心ゆくまで東京を満喫していた様子であった。
彼らはとにかく魚が好きなようで常に刺身を食べたがっており、箸の使い方も日本人より遥かに上手い。
そしてとにかく酒を飲む気さくな兄ちゃん達なので、次の来日に行く機会があれば是非とも乾杯と声をかけてみて欲しい。
テキーラ大会が始まるはずです。