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パスピエ

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さらなる進化を確信させた初のワンマンツアー最終日

全会場ソールドアウトとなったパスピエ初の東名阪ワンマンツアー最終日。開演10分前に会場に到着すると、既にフロアは大混雑となっており、係員が「もう一歩前にお詰め下さい」と声を張るたびに、場内の期待は膨らんでいくようだった。そして大きな歓声に迎えられパスピエの5人が登場し、“トロイメライ”のイントロが鳴った瞬間、筆者の後ろからは「ヤバいっ!」という声が聞こえてきた。フロアの盛り上がりは1曲目から全開だ。

ドラムのやおたくやを頂点に、向かって左サイドにベースの露崎義邦、右サイドにギターの三澤勝洸、そして前列左にボーカルの大胡田なつき、右にキーボードの成田ハネダを配した五角形の布陣でライブはスタート。3月に見たときは左に大胡田が位置取り、右に残り4人が対峙するような陣形だったが、メンバーの場所ひとつで随分と音の感じも変わるものだ。当然、8ヶ月の間にこなしたライブでレベルアップした分もあるだろうが、より一体感を増したバンドアンサンブルはタイトに響き、この陣形では埋もれてしまうのでは?と懸念した大胡田の歌声も、繊細さを保ったまま太さ、そして生々しさが加わったように感じられた。

前半は疾走感のある楽曲を中心に構成していたが、印象的だったのは多くの曲で2番になると自然と手拍子が沸き起こっていたこと。このあたりの楽曲展開の巧みさは、全曲で作曲を手がける成田の東京藝大で音楽理論を学んだというバックボーンも影響しているのだろう。激しさと流麗さ、出るところと引くところ、時にはキーボードを離れてフロアを煽りに行くなど、見事な駆け引きで満員のフロアをコントロール。特にイントロや大サビに向かう間奏は、どの曲にも共通して高揚感にあふれ、熱狂を巻き起こす大きな一因になっていた。

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中盤では変幻自在のアプローチで聴かせた演奏と、コロコロと表情を変える大胡田の歌声が実に魅力的だった。なかでも圧巻だったのは“Eccentric Person Come Back To Me”。膨大な量の歌詞を早口で次々と繰り出す姿は圧巻で、見てる側としてはどこかでトチってしまうんじゃないかという緊張感が張り詰めていたが、ラストの言葉がピタッとハマった瞬間は鳥肌もの。見事なパフォーマンスで魅了してくれた大胡田には、ひときわ大きな歓声が浴びせられた。ほかにも追加公演も決まったということで詳細には触れないでおくが、音源とは異なるスペシャルバージョンで披露された“プラスティックガール”も素晴らしい出来で、より大胡田のボーカルが際立つアレンジは今後に大きな期待を抱かせるものだった。

そしてこの日最大のサプライズが起きたのは終盤に差し掛かった頃。MCで成田が突然「“フィーバー”のときにベースの音が出なかった」と切り出すと、ベースの音もちゃんと聴いてほしいからと、まさかの再演奏を提案。これにはフロアも大喜びで、誰も予想しなかった形でこの日2回目の“フィーバー”が披露されることに。その間に演奏された10曲で、成田がモヤモヤしたものを抱えていたのかと思うと少し微笑ましいが、それだけ自身にもバンドにも高い完成度を要求する姿勢を感じるワンシーンで、順調にステップアップする世間の評価に慢心しない気概は頼もしかった。これが1回目の演奏が終わった直後だったら、また場内の雰囲気も違っていただろう。あのタイミングだったからこそ成田の悔しい気持ちも伝わり、2回目ではサビでフロアから大合唱が起きるなど、1回目よりも数段高いテンションが生まれたのだと思う。ライブはナマモノであり、観客と一緒に作り上げるものであることを改めて感じられた瞬間で、音源からはクールでインテリな雰囲気の漂うパスピエが、アツいものを秘めているということがはっきりしたということもうれしかった。

やり直しが終盤の起爆剤にもなり、高いテンションのまま最後まで一気に駆け抜けて本編は終了。アンコールではデジタルシングルで配信されたばかりの“とおりゃんせ”も披露され、「和」の空気をまとった新機軸の楽曲と5色の絨毯が敷かれたような幻想的な照明は、パスピエの新しい扉を開けるようだった。パスピエの持つ楽曲の多彩さ、巧みさ、そして大胡田なつきというボーカリストの個性をたっぷり堪能できたと同時に、この先のさらなる進化を強く確信させるシーンが随所に見られた初のワンマンツアー最終日。追加公演は既にほぼ全公演がソールドアウトし、年末にはCOUNTDOWN JAPAN 13/14をはじめ、大型イベントにも続々と出演が決定。来年はさらにステップアップすることが確実だが、この日“フィーバー”で見せてくれたこだわりを保ち続ける限り、期待を裏切ることはないはずだ。

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