tha BOSS [THA BLUE HERB]
97年のTHA BLUE HERB(以下TBH)結成以来、自身の世界をストイックなまでに追求してきたtha BOSS。彼が44歳にして初のソロ・アルバム『IN THE NAME OF HIPHOP』を完成させた。田我流、B.I.G. JOE、YOU THE ROCK★、BUPPON, YUKSTA-ILL、ELIASといったラッパーに加え、DJ KRUSH、DJ YAS、Olive Oil、PUNPEE、INGENIOUS DJ MAKINO、YOUNG-G、grooveman Spotら豪華ビートメイカー陣が参加。12月からは同作のリリース・ツアーを控え、12月30日には恵比寿LIQUIDROOMでの公演も予定しているtha BOSSに話を訊いた。
「これがヒップホップだ、ここから入ってきなよ」
── ソロ・アルバムの構想そのものはTBHのアルバム『TOTAL』(2012年)をリリースした直後からあったそうですね。
tha BOSS そうですね。TBHではO.N.Oと2人でずっと曲を作ってきたわけですけど、『TOTAL』でそのやり方の頂点を極めたという感覚があって。最初はノリ一発で始めた俺らの音楽も、テクノロジーの進化や自分たちのスキルが上がったことでいろんなことが表現できるようになった。『TOTAL』を完成させた時点で、完璧さを追求していくのも危うい感じがしたんですよね。ここで一回山を降りて、新しいことに挑戦してみようという気持ちになったんです。
── その「新しいこと」が他のプロジェクトではなく、ソロ・アルバムになったのはなぜなんですか。
tha BOSS JAPANESE SYNCHRO SYSTEMやHERBEST MOONといった別プロジェクトはヒップホップ以外の方法論としてやってきたわけだけど、今回はやったことのないことにチャレンジしたかった。僕が外に出ていっていろんなプロデューサーとやることはこれまでにも多かったですけど、自分でプロデューサーを招いて他のラッパーとやることもなかったんで、一度やってみようと。
── 『IN THE NAME OF HIPHOP』というアルバム・タイトルからは「ヒップホップ」という巨大な存在に立ち向かっている印象を持ちました。
tha BOSS アメリカのヒップホップとの対峙という感覚はまったくなくて、むしろTBHのほうがそういうところはありますね。それよりも18年間、ヒップホップのラッパーとして生きてきたなかで出会った人たちとやろう、というのがアルバム自体のコンセプトでもあった。ヒップホップがあったからこそ出会えた人ばかりだし、DISったりモメたりした人もいるけど、それもヒップホップがあったからこそ関係性が壊れずに、踏みとどまることができた。僕自身のヒップホップの旅におけるこれまでの総決算というか、そういう感覚すね。
── ヒップホップ表現そのものに対峙するのではなく、ヒップホップを通じたライフストーリーの描写。
tha BOSS そうですね、まさに。もちろん他のジャンルのリスナーには「これがヒップホップだ、ここから入ってきなよ」ぐらいのテンションは正直あるけど。ただ、TBHの活動のなかではO.N.Oと僕のサウンド・プロダクション自体がどんどん既存のヒップホップの枠から逸脱していったし、ヒップホップを最初にやりはじめた90年代の王道に対しては異端だったと思ってて。今回のビートメイカーはみんな王道のヒップホップの作り方に則っている人たちがほとんど。ヒップホップを知った一番最初の原点のフィーリングに立ち戻るというのも今回の楽しみのひとつだった。TBHで『IN THE NAME OF HIPHOP』というアルバム・タイトルはありえないんですよね。どちらかというと『ヒップホップ番外地』。今回に関してはあえてド真ん中(のヒップホップ表現)に寄っていってるし、そういうものとして聴かれてほしい。
── リリックに関して言うと、もう一度チャレンジャーとしてラップに向かい合っているような感じもするんですね。あがいたり、もがいている部分もそのまま出している。
tha BOSS 僕は44歳になった今も最先端のヒップホップをやってるっていう意識が強いんです。流行とかじゃなくて、皆誰もが歳を取るという意味で。ただ、精神的には成熟していくけど、20代の頃の自分と比べれば肉体的には衰えていくし、長く生きてる分いろんなことがある。たかが44歳だからアンチエイジングというわけでもないけど、自分をフレッシュに保っていくためにいろいろ代謝していかないといけない。その意味で自分を追い込んでるというのはありますね。
── 自分のケツを叩くというか。
tha BOSS そう。これまで通りですけどね。若いラッパーたちの存在も刺激になるし、TURTLE ISLANDとかの活動も色んな強者達がインスピレーションになるけど、どっちにしたってやるのは俺なわけで。……ただ、今回は自分を追い込みながらも、とても楽しめましたけどね。いろんな人たちとの対峙が楽しかったし、引き出されたところも多かったので
── ビートメイカーやラッパーはどうやって選んでいったんですか。
tha BOSS 僕がこの18年間、いろんな町・いろんな場面で出会うなかで「いつか一緒にやろう」という約束していた人たちにまず声をかけて。あとはスタッフと話している中で挙がった人を改めて聴き直したりして、一緒にやりたいと思った人に声をかけさせてもらった。
── 各地方のビートメイカーが参加してますけど、これもTBHで各地方をこまめに回ってきた成果ですよね。BOSSさんは東京をシーンの中心とするシーンの状況を揺さぶってきたわけですけど、今はまさに東京だけが中心ではなくなった。そういう状況の下地を作ったのはBOSSさんたちだったし、ローカルのラッパーやDJたちもみんなBOSSさんたちの活動に勇気づけられてきたと思うんですよ。
tha BOSS こと日本のヒップホップに関しては俺らがやったことだと正直思ってるし、事実だと思う。誇りでもありますね。でも、どっちみちそうなってたと思う。僕らがたまたま最初に一発勝負をかけてうまくいっただけで、僕らがいなくても今みたいになってたんじゃないかな。今は沖縄なら沖縄の言葉でラップするやつがいて、山梨なら山梨の言葉でラップするやつがいる。インターネットがあればどこにいたって自分のスタイルを発信できるし、おもしろい状況だとは思うけど、俺らの時はインターネットもなかった。
── なるほど。
tha BOSS 自分の表現で日本中の人たちを鼓舞したり感情を揺さぶるにはインターネットだけに頼っていても無理で、自分の身体を運んで面と向かって話をしないと相手も信用しない。俺らは大都市だけではなく小さな街まで回って地元の人たちと対峙しながらこれまで関係を構築してきたわけで、そこまでやらないと「食えない」という感じだね。情報の発信はできても、食えない。
── YOU(THE ROCK★)さんをフィーチャリングした「44 YEARS OLD」(ビートメイカーはDJ YAS)にビックリする方も結構多いと思うんですよ。BOSSさんとYOUさんのビーフを知ってる世代は特に。
tha BOSS YOUもYASも俺と同じ44歳で、YOUは一番最初の段階から招こうと決めてたんです。僕は彼をDISって上がってきたし、彼を削って自分のシノギを作ってきた。KRUSHさんがTBHのレコードをDJでかけてくれたことで僕らにスポットがあたったことと同じぐらい、YOUへのDISとその後の余波は大きかった。ただ、言葉というのは自分に返ってくるんですよ。ヒップホップだから「ごめん」は言えないし、吐いたツバは飲まないけど、そのうち何年かに一回ぐらいは顔を合わせるようになって。あいつは俺がしたことについては何も言わないし、リスペクトを持って接してくれたんですけど、そのなかで俺もYOUという人を知って、だんだん友達になっていった。だから……「いつかは」と思ってたんですよ。一時期、日本のヒップホップ=YOU THE ROCK★という時代もあったと思うんだけど、その後いろんなことがあって、彼自身、苦悩も味わってきたと思う。かつてのあいつを知っていた人からすれば、YOUもここからどうするかということだと思うんですね。うまくいかない事ややるせなさを格好よく歌うというのも44歳なりの最先端のヒップホップだと思うし、あいつも身を削ってヴァースを書いてくれた。嬉しかったですね。
── この曲はまさに「ヒップホップ」ですよね。
tha BOSS そうだと思う。YOUと中目黒の居酒屋で飲んだことがあるんですよ。アルバムのオファーをするために俺が誘って。すげえお互い酔っぱらって、すげえ話した後にアイツ、「ホント、ヒップホップをやり続けて良かったな」と言ったんですよ。「ヒップホップがあったからこの場があるな」って。そこでアルバムのタイトルが一気に浮かんできたんです。
── YOUさんとの競演と並んで驚く方も多いだろう曲が、KRUSHさんとの久々の競演となる「LIVING IN THE FUTURE」。KRUSHさんとは2001年の「Candle Chant(A Tribute)」などのクラシックを残してきましたけど、久々の競演の経緯は?
tha BOSS KRUSHさんに声をかける前の段階ですでにアルバムはかなりの完成度まで到達してたんだけど、「どうせだったらオファーしてみよう」とダメモトでオファーしてみたんです。そうしたらちょうどKRUSHさんもアルバムを作っていたところで、お互いのアルバムに入れようということになった。「Candle Chant(A Tribute)」という、僕とKRUSHさんの共通の友人(ラフラ・ジャクソン)の死を扱ったあの曲を最後にKRUSHさんとは別れていたんで、あそこで終わりにはしたくなかった。もしもいつか一緒にやることがあれば、人の死から始まった俺等のその次のものを表現したいと思っていて。死から始まって生に転ずるという意味では「Candle Chant(A Tribute)」といい二部作ができたと思う。
── BOSSさん自身も「Candle Chant(A Tribute)」のころからいろいろあって、大きく成長されましたよね。
tha BOSS 初期衝動が詰まった最初のころの曲はいま聞き返してみても作っておいて良かったなと思うんですけど、「今の俺ならもっとうまくやれる」というのはすべての曲にある。全然越えられない壁とは思ってなくて、今回の曲もスラッとできましたね。
── ラストの「…RELEASED ALL」には「そして天まで飛ばそう」という(BUDDHA BRAND「人間発電所」の)フレーズもあって。
tha BOSS この曲を書いてるときにちょうどDEV LARGEが亡くなったんですよ。追悼のパーティーのときもスタジオで作業してたし。できればDEV LARGEとも一緒にやってみたかった。
── 現在のBOSSさんは90年代の日本語ラップのシーンのことをどう捉えているんですか。
tha BOSS まあ、あの当時、みんな一生懸命やっていたわけだし、所詮過程でしかないわけで。僕もあの時代にシーンにエントリーさせてもらって、東京のシーンの繁栄に対してナニクソと思う気持ちが力になったけど、それはそれだよね。終わった事。この曲やYOUとの曲を聴いてノスタルジーを感じる人のことは否定しないし、俺もあの時代のヒップホップに対して一切ノスタルジーがないかといえば、やっぱりそんなことはない。でも、あの時代のB-BOYにしたって死に絶えたわけじゃなくて、生きてるんですよね、この町のどこかで。90年代へのノスタルジーの段階で終わらせるんじゃなくて、また新しいストーリーを作っていかなきゃいけない。44になりゃ若さだけじゃなく、格好悪いこともたくさんあるけど、それを格好よく歌うのがヒップホップだから。
── 「ABOVE THE WALL」のなかに「1976年のロバート・バルボア」というフレーズがありますけど、このアルバムはBOSSさんなりの映画『ロッキー』だと思ったんですよ。
tha BOSS そうだね、まさに。国もおかしなことになってるし、賛成反対あるけど、本当の敵を見失わずにがんばっていこうぜ、賢くやっていこうぜ、ということですよね。それがヒップホップの普遍的なテーマでもあるわけだけど。
── 今後、ソロ・アーティストの活動に関してはどう考えてますか。
tha BOSS 12月にはTBHのツアーが始まるんですよ。そのライヴのなかにこのソロの曲も入れていきます。12月30日には恵比寿のLIQUIDROOMでもやるんで、忘年会がてら一杯やりにきてください。
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12/30(水)LIQUIDROOMにて
THA BLUE HERB tha BOSS「IN THE NAME OF HIPHOP」RELEASE TOUR開催!
e+プレオーダー受付実施中!!
2015.10/2(金)12:00~10/13(火)18:00
お申し込みページはこちらから
12/30の公演詳細はコチラ
tha BOSS [THA BLUE HERB] ソロアルバム「IN THE NAME OF HIPHOP」から””MV解禁!!!
tha BOSSによるキャリア初のソロアルバム「IN THE NAME OF HIPHOP」
2015.10.14 ON SALE
ARTIST : tha BOSS [THA BLUE HERB] (ザ・ボス)
TITLE : IN THE NAME OF HIPHOP (イン・ザ・ネイム・オブ・ヒップホップ)
LABEL : THA BLUE HERB RECORDINGS
●限定盤●
CAT NO. : TBHR-CD-026
FORMAT : 2CD(インストCD付属)
発売日 : 2015年10月14日(水)
価格 : ¥4,000(税抜)
●通常盤●
CAT NO. : TBHR-CD-027
FORMAT : CD
発売日 : 2015年10月14日(水)
価格 : ¥3,000(税抜)