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BLUEHARLEM

『BLUEHARLEM』

Yogee New Waves

[label: ビクターエンタテインメント/2019]

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深大で親密なロマンの1枚

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text by 三宅正一

本作『BLUEHARLEM』は、結果的にヨギーが1stアルバム『PARAISO』から表現してきた“青の世界”に一つの区切りをつけるものであり、『WAVES』を含む三部作を閉じる作品として位置づけられている。思い出すことがある。

 

先日、Yogee New Wavesのメンバーと共通の友人の結婚披露宴に参列した。格式高い会場でありながら、宴のムードは和やかで微笑ましいい人間味に満ちていて、冒頭から笑いあり涙ありの様相で進んでいった。新郎の友人代表の余興を担ったのが、角舘健悟の弾き語りだった。健悟はまず加山雄三の「お嫁においで」を爪弾いたあと、本作に収録されている「Bluemin’ Days」を披露した。これが、本当に素晴らしかった。式場にいる人たち全員が、一切のよどみなくふたりの門出を祝福し、今このとき覚えている幸福感が末永く続くようにと願っていた。“きれいごと”という言葉が存在し得ない空間の中で、そこにいる老若男女の澄み切った善意としての優しさがひとかたまりとなって角館健悟(Vo・Gt)の歌をグルーヴさせ、新郎新婦へと向かっていった。無論、感動しないわけがない。

 

〈花束をあげよう 見てるきみに 花束をあげよう 踊るきみに 花束をあげよう 眠るきみに 花束をあげよう 輝く日々に〉

 

 そして。

 

〈花束をあげよう 驚くきみに 花束をあげよう 泣きじゃくる日々に もしもこの世界が 終わりを迎え 嬉しい気持ちしか 残らないのかもしれない 知らない 知りたい〉

 

 人生において主役の会いたい人たちがほぼ一斉に集まる機会というのは、結婚式と葬式だと思うのだが、前者は当人がそれを実感できて、後者は当然だがそれを実感できない。この「Bluemin’ Days」という楽曲がすごいのは、その両方の“一回性”に華を添えられる歌であるということだ。

 

 昨春にこの歌を初めて聴いたときに、今のヨギーはここまでシンプルで大きな視点を持った、地面に咲いた名を知られぬ花とまだ触れられない宇宙に同時に思いを馳せるような、ミクロとマクロが等しく両立した、あるいは生と死に対する意識が同じ熱量で隣り合っているポップソングを作れるようになったのだと思った。きっとメンバーが感じている以上にこの歌は本作、『BLUEHARLEM』というアルバムの核心を担っているし、今後のバンドを強く支える1曲になると僕は確信している。

 

 思えば、2017年5月にリリースされた前作『WAVES』は、オリジナルメンバーの脱退やサポートメンバーの入れ替わりを経て、ボーカル&ギターの健悟とドラムの粕谷哲司にギターの竹村郁哉、ベースの上野恒星が加入し、タフに音楽の波を泳げるバンドになった喜びを解放する、一つのアティチュードとしてのロックンロールアルバムだった。そして、ヨギーは国内外でライブを重ねながら盤石のアンサンブルを誇るバンドになっていった。松井泉(パーカッション)と高野勲(キーボード)という頼もしいサポートメンバーもそれを支えてくれている。

 

 昨年末のツアーは今作へ導く動線を見事に描いていた。夜の帳にたゆたいながら素直なグッドメロディを浮かべる“Good Night Station”、静謐なまま躍動する“Emerald”、アルバムのサラストを飾る楽曲であり壮大なサウンドスケープを形成する“Sunken Ship”と、本作に収録されている楽曲を惜しみなく初披露。深淵なゾーンへといざなっていた。またこれまでライブのハイライトを担っていた「Climax Night」を中盤に置き、さらに自分たちが手に入れた本質的な文化継承が付帯する特別なポップスの切符を提示するようにSUGAR BABEの「DOWN TOWN」をカバーしてみせた。そして、さまざまなダンスシーンをコラージュした映像とともに繰り広げたアフロライクなセッションを経てシームレスに繋げた「CAN YOU FEEL IT」、間違いなくメジャー以降のヨギーのポップネスが最高の状態で開花したと言える「Bluemin’ Days」と「Summer of Love」で本編の幕を下ろした。さらに本作にはフィッシュマンズへの憧憬と敬意を感じさせるダブナンバー「Suichutoshi」、ドゥーワップ調のコーラスが映える「Bring it Home」、オーセンティックなアンセムとしての求心力を持っている「past song」も名を連ねている。

 

このアルバムは、今のヨギーは会場の規模やシーンを問わずその豊潤な歌とアンサンブルを響かせられるバンドであることを証明する1枚でもあると思う。ここから、ヨギーがデザインする“青の世界”はそのメインカラーを成熟させたまま、マーブル模様となって、世界中の音楽を愛する人々に“バンドとポップス”のロマンを広げていく──。

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