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<br>LIQUIDROOM 15th ANNIVERSARY <br/>中村佳穂<br>うたのげんざいち 音楽を生き、音楽が生きた夜


LIQUIDROOM 15th ANNIVERSARY
中村佳穂
うたのげんざいち 音楽を生き、音楽が生きた夜

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Text by 飯嶋藍子 Photo by 森建二 

 

  音楽そのものを、生(せい)のエネルギーを感じた夜だった。そんな感覚を多くの人の心に生み出したであろう「LIQUIDROOM 15th ANNIVERSARY 中村佳穂 うたのげんざいち」。2019年7月13日に恵比寿リキッドルームで開催された中村佳穂のワンマンライブだ。

 

  中村佳穂BANDの荒木正比呂(Key)、深谷雄一(Dr)、西田修大(Gt)、MASAHIRO KITAGAWA(Cho, Sampler)とステージに登場した中村。まずは、ひとりでキーボードを弾きながら、歌への思い、目の前にいる観客たちへの思いを歌にのせていく。中村にとってはじめての規模のワンマンライブとなったこの日。ソールドアウトした満場のフロアも祝福モードで溢れている。中村の前には「APPLE VINEGAR -Music Award- 2019」で獲得した賞金で買ったという新たな機材が設置されている。『AINOU』を経て、7月3日にリリースされたシングル「LINDY」からも、ベースレスというバンド形態に新たな武器を持ち込み自身の音楽を刷新していく姿からも、新しいフェーズに入ったという足取りが見える。アドリブからそのまま、バンドメンバーを誘い込むように「GUM」を披露、続く「アイアム主人公」では、テンポをアップダウンさせたり、「44!」など中村がその場で放った数字で一糸乱れぬキメを見せるなど、中村の掛け声によってバンドが操られていく様、音で遊ぶ変幻自在の鮮やかに会場から大きな歓声が上がる。

 

 

 「FoolFor日記」では、夕陽のような暖色のライティングが会場を包み、中村の歌声がメロウな浮遊感を増幅させていく。「歌って」と中村が叫び全身を振りかぶると、夜が来たような暗転と静寂。そしてMASAHIRO KITAGAWAの歌声が響き、「get back」へ。太いビートの上に乗るふたりの熱のこもった甘い歌声、続く 「SHE’S GONE」の迫り来るような重低音と伸びやかで神秘的な中村の声に、会場まるごと深いところまで潜っていっているようだった。

 

  バンドメンバーがはけて、ひとりステージに残った中村は、「忘れっぽい天使」「シャロン」をひとりで歌い上げていく。歌に乗せてバンドメンバーを呼び込むと 「You may they」へ。ステージが一気に明転し、深谷雄一を台風の目とした肉体的なリズムに会場の熱が上がっていく。「みんな戻ってきたね」と中村がメンバーを見渡し、 「きっとね!」へ。西田修大のエッジーなギターソロ、MASAHIRO KITAGAWAの最高潮のスキャット、荒木正比呂のエモーショナルなピアニカの旋律、それぞれがオーディエンスを引きつけ、会場全体が心地よく大きく揺れていた。

 

 

  およそ10分間の休憩を挟み、中国の民族衣装からインスパイアされた手作りの刺繍のシャツに着替えた中村佳穂が再びステージへ。中村佳穂BANDに加え、馬喰町バンドの武徹太郎(ギター六線、太鼓)と織田洋介(コントラバス)も登場し、中村佳穂BAND+馬喰町バンドの新曲2曲を立て続けに披露する。どこか異国の香りがする2曲によって、前半とはまたちがった空気に会場が包まれていく。またステージにひとりになる中村。『AINOU』制作時から演奏を重ねていくうえでの心情、馬喰町バンドと“LINDY”を作るまでの物語を歌っていく。紡がれた静謐な緊張感を自ら破るように、今日のために作ったという行灯をつけて「お祭りだよ!」と中村。それぞれ行灯を持って、中村佳穂BANDと馬喰町バンドもステージに戻ってくる。武が「今からやる曲が永遠に終わらなければいいのになと思ってる俺がいます。この曲が終わる頃にみなさまもそう思ってくれたら大変幸せです」と言うと、間髪入れず 「LINDY」へ。中村が発する声の芯の強さ、揺らぎ、全てが、「ゼロから始める民族音楽」というこの曲のコンセプトにふさわしい、土着的かつ祝祭的なムードを漂わせて会場を掌握していく。造語だというバンドメンバー全員での掛け声が力強く響くなか、奥山善男(八丈太鼓)、荒井康太(八丈太鼓)、上杉美穂(和太鼓)が登場。音源では打ち込みだったという祭囃子が、まるで地球の鼓動のような八丈太鼓と和太鼓のビートで立体的に立ち上がってくる。「祭りタイム!」と中村が叫ぶと、太鼓隊のソロがスタート。中村佳穂BANDと馬喰町バンドもそれぞれに打楽器を手にして(武がフロアに降りるなど、本当にチンドン屋のような一幕も)、まさに祭りの中心にいるような、はち切れんばかりの高揚感で満たされていく。この日の「LINDY」、中村佳穂は<全部あげる>という言葉以上に、とてつもないエネルギーを放っていた。

 

 

 

  一息あけると一転して、遠くから迫ってくるような重厚感のある太鼓のソロ。速度をあげるそれにスペイシーなキーボードとギターが加速度的に溶け合って、祭りのあとの余韻の感覚と会場そのものが押し広げられていくようだ。そんな拡張性のある音像が静かに消えていくとともに、中村の歌声が浮かび上がるように響く。そこにひとつひとつバンドサウンドが加わっていき、本編最後となる「そのいのち」へ。これまで中村が歌によって吸収した光が一気に解き放たれたような、まっすぐな力強さと、歌によってまた歩みを進めていく希望が見える演奏だった。メンバーを紹介し、「ラブユー! またね」と面々がステージを下りるや否や、すぐに割れんばかりのアンコール。

 

 

  すると中村佳穂BANDが再び登場し、西田の「かほちゃーーん!」という呼び込みで中村もステージへ。メンバー個々の活動の告知をして、中村も「秋にもう一度ワンマンやります!」と、10月23日に東京・草月ホール、11月14日に大阪・BIGCATでのライブを発表した。オーディエンス、この日物販に出店していた友人たちへの感謝の気持ちを述べると、「私の大事な曲を2曲聴いてください。あなたの帰り道にどうぞ歌がありますように」と「口うつしロマンス」と「AINOU」を披露。中村佳穂と中村佳穂BANDの強固な結びつき、そして彼女の声の幽玄の広がりを改めて感じさせられる2曲だった。「私の人生を手伝ってくれてありがとう」という言葉を残した中村佳穂。彼女と祝福しあうような、そして畏怖にも近い圧倒的な痺れと豊かな余韻を残してライブは終了した。

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