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SAVAGE

『SAVAGE』

向井太一

[label: TOY'S FACTORY/2019]

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獰猛な意志のアルバム

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Text by 小川智宏

向井太一ってエモいよね、といろんな人に言っているのだが、いまいち伝わっているのかいないのか、よくわからない。まあ、イメージ的にはオシャレ系な感じもするし、実際とてもオシャレというかスタイリッシュなのは確かで、思いっきりオルタナR&Bに振った(揺り戻した?)今回のニューアルバムを聴くとなおさらそう思うのだが、そうやってサウンドがバキバキになればなるほど、彼の表現の根底にあるエモーションがリミッターなしでダダ漏れてくるという感じがする。

 

彼の書く歌詞の多くは基本的にラブソングの体裁を取っていて、そこで描かれる恋愛のシーンはロマンティックだったりちょっとアダルトだったり、逆にものすごくピュアだったりする。出会いのときめきも別れの哀しみもあるし、ふたりでいることの幸せを歌った歌も苦しさを歌った歌もある。その一方で、彼自身の意志や願いや理想を歌った態度表明の歌もたくさんある。最近だと「27」とか、前作アルバム『PURE』でKREVAとコラボレーションした「Answer feat. KREVA」とか「リセット」とか、節目節目で彼は自分自身のことと音楽のこと、そしてこれから先の未来のことを歌ってきた。

 

今回のアルバム『SAVAGE』は、そのふたつの側面がフュージョンしているというか、ほとんど全面的にメッセージアルバムなんじゃないかという感じで個人的には受け止めた。それほどに意志がみなぎっているというか、闘志を燃やしているというか、もう一度自分の立っている場所を見つめ直し、そこから顔を上げるというか……そういうアルバムだ。

 

過去に決別し自分のアイデンティティを問い直す「Runnin’」もそう、「世界が待ってる」というフレーズが印象的な「ICBU」もそう、いずれもラブソングだが、少なくともそこにはシンガーとして、ソングライターとして、自分がどこから来てどこへ向かうのかという問いが重ねられている。そして圧巻なのはアルバム後半だ。彼のパーソナルな背景を感じさせる「Voice Mail」からタイトルどおりの「最後は勝つ」、「もっと上へ まだ遠くへ/続いてる」と歌う先行曲の「道」を挟んで、英語詞ながら(だからこそ?)もっとも直接的で強いメッセージを綴った「「Dying Young」」、そしてボーナストラックとして収録された「I Like It」での「誰の為でもないから/何を言われてもいいよ」という決意とともにアルバムは幕を閉じる。

 

「savage」という単語は一義的には「獰猛な」という意味だが、スラング的には単純に「ヤバい」という「wild」に近い使いみちもある。もう少し噛み砕くと「野心的で、リスクを恐れず、やりたいようにやる」というニュアンスだ。さらに、どうやら今回のアルバムタイトルにこの言葉を冠するにあたっては、「survive」+「age」という言葉の掛け合わせも含意されているようだ。彼から「age=世代」というキーワードが出てくるというのは正直意外な感じもするが、考えてみれば向井太一は早くから自主企画をキュレーションし、多くのアーティストと共同戦線を張ってきたアーティストでもある。その意味で今作は、数々の作品作りやコラボレーション、ライブを通してポテンシャルを高めてきた彼がいよいよ「打って出る」、その狼煙のようなアルバムだといえるのかもしれない。

 

次々と新星が登場するR&Bのシーンにおいて、誰がリーダーとなりシーン全体を引っ張り上げていくのか。ゆるやかな横のつながりはあるとはいえソロアーティストらしく自らのイノベーションを突き詰めていくタイプのアーティストが多いなかで、向井太一はよりでかい未来を夢見ている。それはずっとそうだったのかもしれないが、今回はそれがはっきりと表出している。それが満を持してということなのか、それともある種の危機感にあおられてということなのかは知るよしもないけれど、とにかく、ここから向井太一はネクストフェーズに突入していく、そんな期待が高まる1作だ。

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